コラム:英のEU離脱問題、総選挙で結論出るのか
Peter Thal Larsen
[ロンドン 30日 ロイター Breakingviews] - 英国の欧州連合(EU)離脱を巡って暗礁に乗り上げた事態を、総選挙で打破する――。英議会は29日夜、12月12日の総選挙実施を圧倒的多数で可決し、こうした結論を出した。ただ有権者がきちんと答えを示してくれるかは不透明だ。選挙でブレグジット(英のEU離脱)の方向性が出てくると期待している政治家は、再び戸惑いを覚えるかもしれない。
少なくともジョンソン首相には、過去5年弱で3回目となる総選挙に踏み切る明確な目的があり、下院議員団に「今こそ国が1つになり、ブレグジットを成し遂げる時だ」と訴えた。同氏は、自身がまとめた離脱協定案を少数与党の議会のまま実現させようとするよりも、国民の負託を得る方が望ましいとの考えに行き着いた。世論調査も同氏の方針の正しさを示唆しており、与党・保守党の支持率はライバルの労働党を10%ポイント前後上回っている。
それでも選挙に打って出るのは大きな賭けの要素が残る。ジョンソン氏は繰り返し、10月31日にEUを離脱すると表明してきた。これは非現実的な約束だったが、結果的に履行できなかった以上、同氏の政敵、特に強硬離脱派の「ブレグジット党」を利することになる。
一方、来年1月末まで離脱期限が延びたことで、EU離脱派が勝利した2016年の国民投票結果の撤回をなお望んでいる有権者は勇気が湧いてくるだろう。ウェブサイト「ブリテン・エレクツ」が追跡している調査を見ると、今国民投票が行われればEU残留に賛成するという人が常に多数派を形成している。そして有権者の動向は予測しづらくなった。2010年から17年の間に行われた3回の総選挙では、有権者の約半数が投票先を変えたという調査結果もある。
とはいえ、国民の間に広がるEU残留への支持を議会の多数派に結びつけるのは難しい。特に歴史的に2大政党に有利な英国の選挙制度ではなおさらだ。有権者は、税金や医療、犯罪、教育といった従来の課題に影響される面もあるだろう。また自由民主党などの親EU勢力が健闘したとしても、16年の国民投票の決定を覆すにはやはりもう一回、国民投票をやり直す必要が出てくるのはほぼ間違いない。
ジョンソン氏が勝っても、ブレグジットに関する自身の悩みが解消されるという状況には程遠い。例えばすぐに直面するのは、来年末までに設定された移行期間を延長するか、もしくはEUと新たな貿易協定に合意する前にたもとを分かつかどうかという、論議を呼ぶ問題だ。
あるいは、12月12日の選挙でも過半数を獲得する勢力が誕生せず、新たな離脱期限が迫ってくるという展開も想定される。前首相のメイ氏は17年、ブレグジットを国民から負託されたかどうかを改めて問い、結果的に過半数を失った。今回も有権者の意見が割れ、選挙で何も決まらずに英国は身動きが取れないままになるリスクが存在する。
●背景となるニュース
*ジョンソン英首相は29日、ついに議会で早期選挙の承認を勝ち取った。同氏はこれでブレグジットを巡るこう着を打開できると期待している。
*12月12日に総選挙を実施する特例法案は、下院で賛成438、反対20で可決された。
*ジョンソン氏は下院議員との会合で「今こそ国が1つになり、ブレグジットを成し遂げる時だ」と強調した。
*労働党のコービン党首は、選挙を真の変化をもたらす機会と位置づけ、労働党政権は国民全員に寄り添うが、ジョンソン氏の保守党は少数の特権階級しか念頭にないと訴えている。
*今月実施した世論調査では、ジョンソン氏が率いる保守党が、労働党を支持率で10%ポイント前後リードしている。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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