アングル:合意なき英EU離脱リスク、なお消えない理由

アングル:合意なき英EU離脱リスク、なお消えない理由
11月25日、ジョンソン英首相率いる与党・保守党は選挙公約で、来年1月末の期限にきっちりと欧州連合(EU)を離脱する方針を掲げた。写真はロンドンの英議会前で5日撮影(2019年 ロイター/Kevin Coombs)
[ブリュッセル 25日 ロイター] - ジョンソン英首相率いる与党・保守党は24日発表した選挙公約で、来年1月末の期限にきっちりと欧州連合(EU)を離脱する方針を掲げた。ただしこれは「言うはやすく行うは難し」だ。
ジョンソン氏が来月12日の総選挙に勝利し、来年1月31日にブレグジット(英のEU離脱)を実行しても、英国と他のEU加盟27カ国は将来の関係を定めるために11カ月の移行期間を設けて交渉に入る。
そして来年末までに新たな貿易協定がまとまらず(専門家はその公算が大きいとみている)、さらなる交渉に向けた移行期間の延長にも合意できない場合、英国は再び事実上の合意なき離脱という混乱の事態に直面してしまう。
なぜそうなる恐れがあるかを以下に説明する。
<来年1月末にブレグジット実現>
世論調査の予測通りジョンソン氏の保守党が総選挙で過半数を獲得すれば、同氏は先月にEUと合意した離脱協定案の速やかな議会通過を目指す。
シンクタンクのチェンジング・ヨーロッパのジル・ラター氏は、年内に離脱協定案の可決にこぎ着けるのは不可能に見えるが、来年1月末の期限までの確実なブレグジット達成に向けた迅速な法制化手続きが行われる可能性はあるとの見方を示した。
<次の期限までは11カ月>
首尾よく来年1月末のブレグジットが実現すると、英国は離脱移行期間に突入し、EUとの長期的な関係を築くための交渉を行う。
現行ルールではこの移行期間を2022年12月末まで延長することが可能だが、保守党は公約で絶対に来年末で移行期間を終えると表明した。
ジョンソン政権やEUの一部高官は、既に規制の枠組み面で共通の出発点に立っている以上、11カ月で貿易協定をまとめるのは英国にとってさほど難しくないと主張している。ジャビド財務相は24日、「われわれはEUと英国の足並みがそろっている地点から(協議を)始める。われわれは全ての重要な原則で意見が一致している」と語った。
<時間不足>
しかしあるEUの上級外交官は、来年末までに英国とEUが将来の関係について合意に達すると想定できるのは、あくまでジョンソン氏が抱く「見果てぬ夢」の中だけの話だ、と冷ややかな口調で切り捨てた。
シンクタンクのインスティテュート・フォー・ガバメントのジョー・オーエン氏は、来年末という期限は非現実的で、それは従来の自由貿易協定を巡る交渉というものが何度も中断を挟みながら、数年を要するからであるのは言うまでもないと説明した。
もっとも複数のEU高官が「必要最小限」とみなすような自由貿易協定の締結を目指そうとしても、英国とEUは、労働市場や環境、国家補助などの基準に関する公平な競争確保という問題で意見の食い違いが表面化することになる。EUは、域内市場を英国によるダンピング(不当廉売)などの反競争的行為から守るため、この分野では自らの立場を主張し続けるだろう。
オーエン氏は「ジョンソン氏が来年末までにEUとの将来の関係を巡る交渉をまとめるチャンスを得たいと望むなら、いくつかの大きな譲歩が必要になる。関税や輸出入枠のない貿易協定の代償として、EUのルールに従い、EU司法裁判所の役割を引き続き尊重しなければならない可能性が大きい」と述べた。
<批准および拒否権に絡むリスク>
英政府とEUが何とか来年末までに将来の関係で合意に達しても、クリアしなければならない手続き上の多くのハードルが出てくる。
この合意は欧州理事会の承認とともに、欧州議会や各国の議会、ベルギーの3つの地域議会のような地方議会の批准が不可欠で、これらの議会が拒否権を発動してもおかしくない。
オーエン氏は手続きには何年もかかる可能性があり、それが英国とEUの協議に影を落とすと予想。「せっかくの合意も、来年末までに関係各方面が受け入れ、批准しなければ、英国は新たに合意なき離脱の淵に立たされる」と語り、そこでアイルランド国境や市民権などの一部問題を除くあらゆる離脱協定の枠組みが消し飛んでしまうと警告した。
<移行期間延長を迫られるジョンソン氏>
英国がEUと将来の関係の話し合いを始めてから、合意なき離脱の淵を回避するためにジョンソン氏に与えられた時間は多くない。もし同氏が移行期間を1年ないし2年延長したいと考える場合は、来年6月末までに申請が必要だ。
ラター氏は「移行期間延長なしの場合は、合意なき離脱になるか、それにかなり近い形の極めて狭い範囲の合意しか結べないリスクを伴う。現時点でジョンソン政権はそこに向かっているように見受けられる」と懸念している。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab