アングル:EU離脱「党派対立棚上げを」、英企業焦りの要請

アングル:EU離脱「党派対立棚上げを」、英企業焦りの要請
1月28日、英企業の間で、政治家に欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を巡る論争をやめ、秩序ある離脱で合意するよう嘆願する声が高まっている。ロンドンの英議会前で17日撮影(2019年 ロイター/Clodagh Kilcoyne)
Guy Faulconbridge
[ロンドン 28日 ロイター] - 英企業の間で、政治家に欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を巡る論争をやめ、秩序ある離脱で合意するよう嘆願する声が高まっている。大企業の中には、「合意なき離脱」になった場合の大混乱に備え、「シチュエーションルーム」(状況分析室)を設置したところも現れた。
法律で定められたEU離脱期日の3月29日まで9週間を切ったが、英政府内では、離脱をどのように実施するかはおろか、離脱すべきかどうかについてすら合意が得られていない。
英議会は15日、メイ英首相がEUとの間でまとめた、経済的混乱を最小化するための約2年間の移行期間設置を含む離脱協定案を否決した。これにより、このままいけば離脱協定なしに英国がEUから離脱する可能性が高まった。合意なしに離脱すれば、港湾で大渋滞が起き、サプライチェーンが寸断され、金融市場に激震が走る恐れがある。
メイ首相が提出したブレグジット代替案の議会採決を29日に控え、英国の海運業界は政治家に対し、言い争いをやめてメイ首相がEUとの間でまとめ上げることのできるような合意に同意するよう求めた。
「党派政治はひとまず脇に置き、大局的な見地からこの国にとって最良なものは何かを考えることがわれわれに求められている」
英国海運会議所のボブ・サンギネッティ最高経営責任者(CEO)はロイターにこう訴えた。
海運大手モラー・マースクや船舶会社P&Oなど200社が加盟し、英国のモノの通商の95%を仲介している同会議所では、メイ首相は否決された離脱協定案で最も議論を呼んだアイルランドとの厳格な国境管理を避けるためのバックストップ(安全策)を削除するか、それに期限を設けるべきだとしている。
「離脱協定案の有効な代替案がなく、われわれは、ビジネスや製造業、消費者に甚大な被害と混乱をもたらす合意なきシナリオに向けて進み続けている」と、サンギネッティ氏は話す。
元英海軍代将でもあるサンギネッティ氏の発言は、世界5位の経済国である英国がEUから合意なしに離脱する可能性について、英企業がどれほど懸念を深めているかを示している。
<シチュエーションルーム>
メイ首相は、離脱協定案が歴史的大差で否決されてからちょうど2週間にあたる29日に予定されている一連の議会採決を利用して、与党保守党内で支持が得られる合意をまとめようとしている。
だが政治家の間ではブレグジットを巡る駆け引きが続いており、今後の展開についてさまざまな予測を立て始めた英大手企業もある。英国は過去20年間、世界最大級の対外投資先だった。
EUのメンバーシップを巡る危機が最高潮に達する中、起こり得る結末としては、合意なき離脱、土壇場での合意、離脱延期、解散総選挙、それにブレグジットを決めた2016年の国民投票のやり直しがある。
「われわれが接触している企業の多くは、50条の延長を願っている」
コンサルティング会社KPMGのブレグジット責任者ジェームズ・スチュワート氏はこう話す。50条とは、離脱交渉の期間を2年と定めたEU基本条約(リスボン条約)の条文を指す。
「一部の企業は遅れていたが、現在ではほぼ全ての大手企業がブレグジット準備を始めている。ただ、離脱なき合意が現実になる場合、いつ対応策を実行に移すかの計画には企業間で幅がある」
「最も情報量の多い顧客ですら、何が起きても不思議はないと考えている」とスチュワート氏は言い、「企業が考えているのは、製品をある地点から別の地点にどう輸送するかや、市場アクセスの確保、そして4月に向けてシチュエーションルーム要員を十分に配置することなどだ。ブレグジットの結末を予測することは、ドッグレースの結果を予測することに少し似ている。安全な賭けなどない」と付け加えた。
ブレグジット対応の困難さは、どの産業セクターにとっても共通で、困惑させられると同時に高コストなものだ。
英製薬大手アストラゼネカは医薬品の備蓄を増やすとしており、独高級自動車メーカーのBMWは、ドーバー海峡の英仏両側にトラックの駐車エリアや倉庫を確保しようとしている。P&Oでは、所有する船舶をEUの税制にとどめるため、キプロスに登録を移すとしている。
英議会は29日、メイ首相の離脱代替案に加え、前出の「50条」の交渉期間延長を求めることで離脱を延期することを含む、他の議員が提出した修正案などを審議・採択する見通し。
著名なEU離脱派の保守党議員ジェイコブ・リースモグ氏は、メイ氏の離脱案は、アイルランドとの国境管理を巡るバックストップを削除するか無効化すれば、保守党内のEU懐疑派議員にも受け入れられる可能性があると発言している。
バックストップとは、他に何の合意も得られなかった場合に、アイルランドと英領北アイルランドとの国境管理の厳格化を防ぐもので、メイ氏の離脱案の中でも最も議論を呼んだ部分だ。
(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)

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