アングル:英企業活動が復活、EU離脱巡る不透明感後退

英企業活動が復活、総選挙でEU離脱巡る不透明感後退
 ロンドン北部の工業地帯にある金属プレス機販売の中小企業ブルーダラーUKは、ジョンソン首相率いる与党・保守党が昨年12月の総選挙で大勝した直後から、にわかに仕事が忙しくなった。写真は同社工場で機械を点検するサービスマネジャーのマーク・クローフォード氏、英ルートンで24日撮影(2020年 ロイター/Henry Nicholls)
[ルートン(イングランド) 26日 ロイター] - ロンドン北部の工業地帯にある金属プレス機販売の中小企業ブルーダラーUKは、ジョンソン首相率いる与党・保守党が昨年12月の総選挙で大勝した直後から、にわかに仕事が忙しくなった。
コイン製造にブルーダラーの機械を使っているロイヤル・ミントなどの顧客が、1月31日に英国が欧州連合(EU)を離脱するとはっきりと認識したからだ。多くの企業は、選挙結果を受けて長い間棚上げしていた各種の事業計画を再び進めている。
ブルーダラーUKのマネジングディレクター、エイドリアン・ハラー氏は「この3年間われわれはずっと何も決められない状態にあった。(しかし)選挙が実施されたことで、大きな安心感が広がった」と話した。
他の企業からも続々、選挙後に業況回復が報告されており、ジャビド財務相は、英国の経済成長が金融危機前の年3%近くまでいずれ戻るのではないかと期待している。
こうした事態は、ブレグジット(英のEU離脱)支持者の勝利を意味するとともに、EU域内のユーロ懐疑派に勇気を与えるだろう。
ブルーダラーUKは2019年全体の売上高が400万ポンド弱だったが、足元で早くも計150万ポンド相当の新型機械2台を販売。ハラー氏は、1月と言えば毎年取引がなかなか成立しにくい傾向があったのに、今年はまだ3週間を過ぎたばかりでもう浮足立つほどの慌ただしさに見舞われていると述べた。
もっとも英国の輸出の半分近くを受け入れてきたEUから本当に離脱することについて、心配が消えない企業も多い。また、確かに保守党の勝利で、ブレグジットが一段と先送りされるとの見通しは消え去ったものの、今後英国とEUは11カ月の移行期間後の関係を定めるための新たな貿易協定に向けた交渉をしなければならない。
<本格反転か蜃気楼か>
保守党の勝利は、野党・労働党の下で左派的政策が実施されるリスクがなくなったという側面も持つ。直近の労働党は一部産業の国有化や経済・社会における国家の関与強化を提唱していただけに、多くの企業経営者はどうなるかと気をもんでいた。その不安が解消されたことが、選挙後初めて出てきた経済指標で確認された。つまり景気信頼感が持ち直し、住宅市場の勢いが増したのだ。
24日に発表されたIHSマークイットの1月購買担当者景気指数(PMI)は1年余りぶりの高水準を記録。イングランド銀行(英中央銀行、BOE)は30日の金融政策委員会(MPC)で利下げを思いとどまる気持ちになったかもしれない。
ただ19年終盤にほぼゼロ成長となった英経済が本格的に上向いているのかどうかはまだ分からない。中期的な観点で、英国の成長率が年1%強という現在のペースから大幅に加速すると予想する投資家は数少ない。
16年の国民投票でブレグジット派が勝利した直後に急降下すると示唆されていた経済はその後何とか落ち着いたとはいえ、19年の成長率は金融危機以降で最低にとどまった。国際通貨基金(IMF)によるとまだ成長が上振れの転換点に達していないし、今後英国とEUの新貿易協定を巡る交渉が移行期間中に決着するのかを巡り、不透明感がまた広がってくることもあり得る。
<活発化する一部セクター>
ジャビド氏は3月にインフラ整備のための投資拡大を発表して、経済てこ入れを図ろうとしている。
そして少なくとも幾つかのセクターでは、鳴かず飛ばずだった19年よりも事業環境は明るくなってきた。
住宅建設のバークリーは建設活動を活発化させており、不動産開発のカントリーサイド・プロパティーズは受注残高が過去最高に達した。パブのチェーンは、クリスマス期間の売り上げが好調だったという。
一方、特に年内に英国とEUが貿易協定で合意に達しなかった場合の損害が大きいとみられるセクターは、慎重な構えを崩していない。
自動駐車などのコンピューターシステムを手掛けているRDMグループは、アストン・マーチンやジャガー・ランド・ローバーといった顧客からの需要に変化は見られないもようだ。これは英国の自動車セクターが直面している非常に大きな不確実性を反映している。同セクターは、年末までに英国とEUが新たな貿易協定に合意できなければ、高関税を課せられる恐れがある。
それでもショッピングモールや空港などの往復移動のための自動運転車を製造するRDMの子会社は、中東や北米、オーストラリアなどの、英総選挙前は音沙汰がなかった潜在的顧客から改めて関心を寄せられるようになった。
幹部の1人、マイルス・ガーナー氏は「英国がどこに向かうのかについて多大な不安があった。それが今の政府は企業本位だと次第に判明してきていることが(事業に)プラスに働いている」と説明した。
(William Schomberg記者)

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