コラム:壁建設で「取引」せず、トランプ大統領の新たな闘争

コラム:壁建設で「取引」せず、トランプ氏が始める新たな闘争
 2月15日、トランプ米大統領(写真)は、また新たな一種の「闘争」を始めた。テキサス州で11日撮影(2019年 ロイター/Leah Millis)
Gina Chon
[ワシントン 15日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領は、また新たな一種の「闘争」を始めた。今度の舞台は国内だ。議会がトランプ氏の要求するメキシコ国境沿いの壁建設予算計上を拒否したため、同氏は15日に非常事態宣言を出した。
これにより野党・民主党らとの法廷闘争が待ち受けることになる。同氏が昨年、壁建設予算に関する民主党側の妥協案を退けた点を考えれば、このような結果は同氏が常に掲げる「ディール(取引)」とは到底言い難い収拾のつかない状況だ。
メキシコ国境沿いの壁建設はトランプ氏にとって選挙公約の目玉の1つで、大統領就任以来ずっと予算確保を求めてきた。そして昨年3月には民主党が一時、全費用を賄うことを認める意思を表明していたのだ。ところがトランプ氏はその代わりに、幼少時に親に連れられて米国にやってきた不法移民の若者「ドリーマー」180万人への市民権付与につながる措置を講じるのを拒んだ。
その後昨年12月に議会が壁建設費用57億ドル(約6300億円)の予算計上を否決すると、政府機関の一部が35日間閉鎖される事態が発生。この再発を防ぐため、議会は14日に国境沿いのフェンス建設費14億ドルなどを含む歳出法案を承認した。一方トランプ氏は非常事態を宣言する文書にも署名。それによって理論上は、国防関連予算などから約67億ドルを壁建設に充当できる。
民主党の議会指導部は非常事態宣言を違憲で、大統領権限の乱用だと主張し、一部共和党議員でさえ悪しき前例になるのではないかと心配している。
さらに非常事態宣言の必要性にも疑問符が付く。なぜなら第1に、大半の違法な麻薬は港湾という通常の出入国ルートで米国に運ばれており、壁を建設しても阻止できない。第2に、国境の治安問題は非常に長い間政治的な議論の的になってきたので、トランプ氏が今になって非常事態を宣言するのはちぐはぐだ。
トランプ氏自伝の表題は「取引の技(the Art of the Deal)」で交渉を成立させる能力に関する同氏の自信の高さがうかがえるが、現実を見れば壁問題以外の貿易などでも厳しい協議を強いられてきた。
北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉では一方的な離脱の脅しでカナダとメキシコにそっぽを向かれる場面があり、結局内容を多少修正しただけの新協定を結ぶことになった。中国との貿易協議でもトランプ政権は強硬姿勢を保ち、制裁関税を発動しながら、足元の状況は政権発足前と大して変わっていない。
一方でこの間に中小企業や消費者などは、追加コストの発生やサプライチェーンの寸断で痛手を受けた。壁建設も法的、政治的な混乱を起こすのは必至だ。トランプ氏の取引手法には「高度な技」があるようにはまったく見えない。
●背景となるニュース
・トランプ大統領は15日、メキシコ国境の壁建設に向け国家非常事態を宣言し、建設費用の捻出が可能になった。議会が14日に可決した歳出法案で認められたのは14億ドルのフェンス費用だけで、トランプ氏は57億ドルを要求していた。
・トランプ政権は今後、財務省の薬物関連基金6億ドルや国防総省の薬物対策費25億ドル、施設建設費36億ドルなど計67億ドルを新たに利用できる。
・民主党のペロシ下院議長とシューマー上院院内総務は、非常事態宣言を批判しており、法定闘争を挑む公算が大きい。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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