アングル:中国半導体にバブル到来か、対米摩擦で政府が国産支援

アングル:中国半導体にバブル到来か、対米摩擦で政府が国産支援
 6月25日、米国が中国のハイテク企業に対する締め付けを強化し、この分野で米中の主導権争いが激化する中、中国の半導体産業が投資ブームに沸いている。写真はファーウェイのプロセッサ。2019年5月、広東省深センにあるフェアーウェイ本社で撮影(2020年 ロイター/Jason Lee)
Josh Horwitz Samuel Shen
[上海 25日 ロイター] - 米国が中国のハイテク企業に対する締め付けを強化し、この分野で米中の主導権争いが激化する中、中国の半導体産業が投資ブームに沸いている。株式価値は上場企業、ベンチャーが支援する企業ともに高騰し、バブルの域に達しつつある。
上場している中国半導体企業45社は、株価収益率(PER)が100倍を超え、株式市場で最も割高なセクターとなった。
かつて消費者向けインターネット株に集中していたベンチャーキャピタルも半導体企業に関心を転換、未上場企業の案件に群がっている。ゼロ2IPOのデータによると、半導体セクターへのベンチャー投資は2019年までの2年間で220億元(31億1000万ドル、約3327億円)と、ほぼ倍増した。
創業6年のワイヤレス充電用半導体メーカー、ニューボルタのジンビャオ・フアン共同創業者は「政府だけでなく、民間セクターも含め、中国ではだれもが半導体関連への投資を試みている」と言う。
多くのスタートアップ企業はまだ製品を製造していなかったり、長期的な企業価値を実証していなかったりするため、実態と比べた資産価格バブルを警戒する声もある。しかし、政府は国内育ちの半導体産業の支援をさらに強化しており、米中摩擦にも終わりが見えない中、投資熱は強い。
半導体スタートアップ企業、ネクストVPUの創業者、アラン・ペン氏は「10年前であれば、中国の半導体投資家は2つのテーブルに収まっただろう。今では同じ2つのテーブルに数百人の投資家がひしめき合っている状況だ」と話す。
<ネット企業投資は減速>
最近まで中国の半導体セクターは政府に大きく頼っていた。「ビッグ・ファンド」の呼称で知られる国家集積回路産業投資基金は2014年、半導体プロジェクトで1390億元を獲得。昨年に2040億元を追加で調達していた。
一方で民間投資家は以前、資本集約的なセクターを敬遠し、インターネットサービス大手の騰訊控股(テンセント・ホールディングス)<0700.HK>や食品配送の美団点評<3690.HK>など、急成長する消費者向けネット企業に好んで投資した。
しかし、ネット業界の成長が頭打ちになるに従い、投資家は代替的な投資先を模索。米国が中国に関税を課したことや、通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)、その他の中国企業による米ハイテク品購入を米政府が国家安全保障の理由で制限し始めたのもきっかけに、受け皿となる新たな選択肢が開かれている。
チャイナ・グロース・キャピタルのウェイン・シオン氏は、「次のテンセントや美団点評を探しても、中国で過去20年間に見られたような伸びは期待できない」と指摘。「半導体に目を向ければ、膨大な市場機会がある」と言う。
この結果、中国半導体企業株のバリュエーションは急騰した。大半は世界的な知名度の乏しい企業だ。
光学用半導体のスタートアップ企業、ノース・オーシャン・フォトニクスは、2017年にエンジェル投資家から資金調達した際、企業価値評価は数千万元だった。それが今年3月の直近の資金調達を終えた際には10億元を超えたのだ。
「突如としてこのセクターに資金が押し寄せている」とベンチャー投資家は言う。
上場企業の株価も急騰した。多くは中国版ナスダックと呼ばれる、上海証券取引所の「科創板(スター・マーケット)」で取引されている株だ。
半導体製造装置のアドバンスト・マイクロ・ファブリケーション・エクイップメント(AMFC)<688012.SS>の株価は1月から150%も上昇し、PERはなんと540倍に達した。
<国内企業で代替>
業界関係者の間で、中国の半導体企業は2つのグループに分類されている。
1つ目は中国ハイテク企業が輸入している半導体や半導体製造装置の部品や機器を代替できそうな企業グループ。2つ目は人工知能(AI)関連企業だ。しかし、いずれのグループも数々のリスクを抱える。
グローリー・ベンチャーズのジェリー・バイ氏は「海外製よりも安い半導体にばかり投資するなら、だれもがそうすることは可能だが、そうするとだれも利ざやは稼げない」とくぎを刺す。
多くの企業は実績も欠いている。年内に科創板への上場を計画するAI用半導体企業、カンブリコンの目論見書によると、2019年決算は売上高が4億4400万元なのに対し、純損益は11億8000万元の赤字だ。同社はファーウェイがらみで事業を失い、今は売上高の約半分を1つの地方政府支所に依存する。
半導体投資の経験者は「彼らにこれといった実体的な顧客は存在せず、大きな赤字を出している。それでも政府がAIと半導体を支援したがっているために、彼らは上場審査を通ることできる」と語った。
カンブリコンにコメントを要請したが、返信は得られていない。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab