アングル:新型ウイルス、情報分析急ぐ日米欧中銀

アングル:新型ウイルス、情報分析急ぐ日米欧中銀
 2月21日、日米欧の中央銀行は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、経済にどのような影響が出るか情報の分析を急いでいる。写真は都内にある日銀本店で2015年5月撮影(2020年 ロイター/Toru Hanai)
[ワシントン/リヤド/フランクフルト 21日 ロイター] - 日米欧の中央銀行は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、経済にどのような影響が出るか情報の分析を急いでいる。
中銀は、中国経済に正常化の兆しがないか、石炭の消費量や交通量を注視。感染が早期に終息するかどうか、中国国外の感染者数に目を光らせている。
日本の当局は、銀座の買い物客の動向や航空便・クルーズ船のキャンセル状況を調査し、国内経済の行方を分析。
米国では、連邦準備理事会(FRB)がサプライチェーンの弱点を突かれた起業家や国内企業から話を聞いている。
リッチモンド連銀のバーキン総裁は19日のインタビューで「(企業の)知らないところで、中国がサプライチェーンに密接に関与しているケースがある」と指摘。ある医療機器メーカーから「サプライヤーのサプライヤーが一部で中国に関係している」という話を聞いたことを明かした。
<影響は一時的か、世界的な景気後退か>
ウイルスの感染状況は日々変化し、予測がつかない。このため、ウイルス感染に関する経済モデルを構築する絶対確実な方法があるわけではない。
ただ当局者やアナリストによると、次の点は明らかだ。現場の人々に話を聞けば聞くほど、中国が世界のサプライチェーンで深い役割を果たしていることがわかる──。これは感染拡大が長期化すれば、システミックな問題に発展するリスクが高まることを意味する。
中国政府がウイルス対策の一環として検疫や工場閉鎖を開始する前に、企業がどの程度の部品在庫を確保していたのか。また企業はどこまで柔軟に別のサプライヤーに乗り換えられるのか。
バーキン総裁によると、こうした問題はどのような経済モデルを使っても把握できるものではない。このため、各国の中銀は情報収集を急いでいる。
アナリストは概ね、影響は限定的というシナリオを描いている。特に第1・四半期の中国経済が鈍化するといった予測が多い。
だが、世界経済の縮小リスクを指摘する声や、世界経済の需要減少で、最悪の場合、米欧が景気後退に突入するといったシナリオも浮上している。
こうした予測は、日米欧中銀の基本シナリオではない。FRB、欧州中央銀行(ECB)、日銀は、まだ経済的なショックに備え利下げなどの政策措置を推し進めてはいない。ただ当局者は、視界不良の中で政策を運営していることを認めている。
バーキン総裁は「今後数週間で一気に終息すれば、影響は小さく、問題にはならないだろう。数カ月間続けば影響は大きくなり、(中国のサプライヤーや対中輸出に依存する)経済の10─15%に影響が出る可能性が高い」と述べた。
日欧でも、感染拡大の期間で影響の度合いを判断するという手法が導入されている。特に日本は、中国との経済関係が深く、新型ウイルスの発生で光景が一変した、と警戒を強めている。
<影響が波及するリスクも>
エコノミストは、今回の新型ウイルスのような出来事に、楽観的な経済予測を示すことが多い。
確かに、車の購入は1─2カ月先送りすることが可能だが、旅行や外食をあきらめた場合、必ず後で代わりの旅行や外食をするとは限らない。
とはいえ、全体としては、最終的には景気が回復し、ショックの影響を相殺できる、という見方だ。
だが、システム全体を変える出来事も存在する。当局者やアナリストは、2011年の東日本大震災と福島原発事故を受けて、多国籍企業がサプライチェーンの一極集中を避けるようになったと指摘する。
FRBの研究者が昨年まとめた論文(here)によると、中国で金融面のストレスと急激な国内総生産(GDP)の減少が重なる「ハードランディング」が起きた場合、「貿易と金融の双方のルートを通じて、米国経済と世界経済に結果的に影響が波及する」とみられる。
米当局者は、大雑把な経験則として、中国の経済成長率が1%ポイント下がれば、米国の経済成長率が0.2%ポイント前後下がると指摘する。これはかなりの影響だが、甚大なショックが発生しない限り、景気後退にはつながらない。
一方、欧州の当局者は、まだ懸念すべき時期ではないが、警戒が必要だと指摘している。
ECBのチーフエコノミストを務めるレーン理事はベルリンで「過去を振り返ると、こうした出来事は、短期的には大きな影響が出るおそれがあるが、長期的な影響はない」と指摘。「これが基本シナリオだ。様子を見よう。どの程度早く感染が終息するかに左右される」と述べた。

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