アングル:米取引所、新型ウイルス「NY到達」への備えは

アングル:米取引所、新型ウイルス「NY到達」への備えは
2月28日、新型コロナウイルスの感染流行がニューヨーク市に到達すれば、さらなる株価の急落を招くかもしれない。ニューヨーク証券取引所で撮影(2020年 ロイター/Brendan McDermid)
[ニューヨーク 28日 ロイター] - 新型コロナウイルスの感染流行がニューヨーク市に到達すれば、さらなる株価の急落を招くかもしれない。しかし、ニューヨーク証券取引所(NYSE)の立ち会い取引が閉鎖されても、市場機能は継続される可能性が高い。米国の株式取引所はどこも、緊急時対応計画(コンティンジェンシープラン)を用意しているとしている。
株式取引の混乱や狼狽売りが起きた場合に市場はどう動くか、想定されることをまとめた。
<証券取引所の備え>
米証券取引所はほぼすべて電子化されており、今でも立ち会い取引をしているのはNYSEのみ。そのNYSEも、立会場を閉鎖しなければならなくなっても、商いは完全に電子取引で続けられる。
NYSEの広報担当者は「新型ウイルスの感染拡大を注視しているし、われわれにはしっかりしたコンティンジェンシープランがある。プランは定期的にテストされてきたし、取引所に影響が出ても取引は継続できるようになっている」と語る。
競争相手のCBOEグローバル・マーケッツの広報担当者も「取引活動に影響し得るさまざまなシナリオを想定して、事業継続計画(BPO)を用意している」と話した。
ナスダックの広報担当者は「当取引所の従業員、ベンダー、来訪者の安全が最優先だ。今後も最新の状況を把握し、相応の行動とコミュニケーションを続ける」とした。
<仮にどこかの取引所が停止したら>
NYSEは2015年7月8日、技術的な障害のため数時間にわたり取引を停止したが、他の国内証券取引所10カ所は通常通りの取引を続けた。
現在は米証券取引所は13カ所あり、年内にさらに3カ所が開始する見込み。またブローカーディーラーが運営する株式の私設市場(PTS)が30近くある。
13年8月にはナスダックが、技術的障害で全上場銘柄の取引が3時間停止。これを受けて米証券取引委員会(SEC)は、継続的で秩序立った取引機能を確実にするためウォール街の幹部らで話し合うよう要請した。
<米市場の全面閉鎖はあり得るか>
12年10月29、30日の両日、米市場は閉鎖された。超大型ハリケーン「サンディ」がニューヨーク市を襲ったためだ。NYSEはマンハッタン南部の安全が確保できないとして、立ち会い取引を閉鎖した。NYSEは完全電子化取引に移行する計画だったが、金融機関の大半がそうした移行や、最小限の人員での態勢に備えていなかった。トレーダーも規制当局も、NYSEの計画を信頼していなかったため、計画は棚上げになった。
広範なテストが行われるようになったのは、それ以降だ。
01年9月11日の米同時多発テロに際しても、パニック売り回避のため、取引は17日まで停止された。
<株式市場暴落で取られ得る対応>
1987年10月19日、ダウ工業株30種平均<.DJI>が22.6%暴落した「ブラックマンデー」後、SECは株価急落を緩和するための「サーキットブレーカー」制度を導入した。
ブラックマンデー型の暴落を避けるシステムは次の通り。S&P総合500種<.SPX>が米東部時間午後3時25分前に7%超下落すると、取引は15分間停止される。その後の取引再開後も下落が続き、まだ3時25分前であれば、下落率が13%に達した時点で再び停止。3時25分を過ぎていれば取引は継続。しかし下落率が20%に達すると、その日の取引は終了となる。
<過去の事例と比べると、どう変わったか>
カナダ・トロント拠点の電子取引企業の幹部、ダグ・クラーク氏によると、ハイテク技術の進歩で在宅での勤務は容易になった。トロントは2003年に中国から拡大した重症急性呼吸器症候群(SARS)で、最初に感染波及を経験した海外都市の一つだった。
クラーク氏は「われわれは完全な混乱状態に陥った」と話す。当時、トレーダーが家からすべての取引ツールにアクセスするのは難しかったという。それ以降、仮想専用線(VPN)の技術が大きく進み、在宅勤務はもう、たいした問題ではなくなった。
ジョージタウン大のジェームズ・アンジェル教授によると、SECも14年に取引所に高度な緊急時対応策を求める規則「レギュレーションSCI」を導入。取引所はバックアップシステムのテストを定期的に実施しているという。
しかしテストには限界がある。アンジェル氏は「想定できるテストはすべてできるが、現実に使うまでは、それが本当にうまく行くのかは分からないものだ」と指摘した。

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