焦点:中国版ナスダックでIPO方式一変、戸惑う投資銀行

焦点:中国版ナスダックでIPO方式一変、戸惑う投資銀行
 4月25日、中国版ナスダックと称される「科創板」が、早ければ6月から上海証券取引所の一部として始動する。写真は上海で2016年撮影(2019年 ロイター/Aly Song)
[上海/香港 25日 ロイター] - 中国版ナスダックと称される「科創板」が、早ければ6月から上海証券取引所の一部として始動する。新規株式公開(IPO)の方式が一変するため、価格設定や投資家への販売などで従来は必要なかった独自の裁量や工夫が求められる投資銀行業界では、戸惑いが広がっている。
これまでのIPOは、プライシングに関する当局の指針によってバリュエーションが抑えられ、投資銀行は簡単に買い手を見つけられた。ある投資銀行家は「以前ならIPOで株式を売るのは楽だった。これからは関心を持つ投資家を見つけ出し、上場企業や属する業界の将来性を語る必要が出てくる。時間がかかるし、費用もかさむ」とこぼした。
投資銀行業界が不安を感じているのは、中国の幅広い資本市場改革の一環として科創板に試験導入されるIPOの登録制度だ。業界は、当局の定めた指針に従って粛々と手続きを進めることに慣れきっていたが、登録制になれば香港やニューヨークなどと同様にプライシングを巡って利害が相反することが多い上場企業と投資家それぞれと話し合った上で着地点を探らなければならない。
国金証券(上海)のマネジングディレクター、Chang Houshun氏は「われわれにとって非常な難題だ」と語り、以前のIPO引き受けは「機械的」に行っていたと付け加えた。
科創板のIPOでは企業の質やタイミングに関連した政府の規制は撤廃され、まだ黒字化していない新興企業の上場が可能になる。また非公式ながらも慣例化していた公開価格の上限規制も廃止される。
こうした制約がなくなるので、中国の投資銀行は西側の同業者のように企業の成長力やリスク、ならびに市場環境などを勘案してIPO価格を設定することが必須となる。
Chang氏は、根本的なルール改正によって投資銀行業界の再編や淘汰が加速し、中国版のゴールドマンやシティ、JPモルガンが登場してくる公算が大きく、強力な4─5行以外に生き残れる銀行はそう多くないだろうとみている。
<スキルアップ>
投資銀行業界では、IPO方式変更への不安や新規案件を獲得しようという意欲を背景に、スキルアップを急ピッチで進める動きが見られる。
科創板は、香港やニューヨークと異なり引き受け金融機関がリスクを共有してIPO株の2─5%を保有することが義務付けられているため、資本基盤を拡充している投資銀行も多い。
申万宏源集団<000166.SZ>は、投資銀行部門を再編して業界別チームを立ち上げ、ハイテクやヘルスケアなどのセクターの専門家を育成する構えだ。同時に香港への上場を通じて11億6000万ドルを調達している。引き受け部門のマネジングディレクター、Tu Zhengfeng氏は「われわれはグローバルな投資銀行の構造に向かって進んでいる。企業の本源的価値をつかむことの重要性が増しており、そのための専門性が求められている」と説明した。
またこれまでの中国のIPOで形式的なイベントにすぎなかった投資家向け説明会について同氏は、当該企業の株をなぜ買う必要があるか、価格はどのように決まったなどをしっかり伝えなければならなくなったと強調した。
中信建投証券のZhao Jun氏は、投資銀行は特にハイテクセクターのIPO候補企業を掘り当てるために情報ネットワークを強化することも求められるとの見方を示した。
<過熱リスク>
上海証券取引所幹部のPeng Yigang氏は、上場申請企業や投資銀行の間に不安が広がっていることを認めた上で、多くの関係者からIPOについて取引所側に何が適切なのか答えをくれとの問い合わせがあるが、登録制の下でそれを決めるのは市場だと述べ、理解を求めた。
科創板に上場を申請した企業は既に100社近くに上る。
それでも、当局が少なくとも科創板が始まってしばらくの間、IPOに関して指針を出すのを完全にやめるのかどうか懐疑的な声も多い。予定売り出し額を応募額が大きく上回り、バリュエーションが高騰して市場が過熱化するリスクがあるからだ。
かつて設立された創業板(チャイネクスト)も、滑り出しで投機による相場急伸が起こった挙句、その後急落して投資家心理を冷え込ませて二度と回復せず、新興企業の上場を後押しする試みとしてはほぼ失敗に終わった経緯がある。
上海証券取引所の元チーフエコノミストは「海で泳ぐ前にはプールで泳ぎ方を習わなければおぼれてしまう」と語り、いきなり投資銀行の全面的な裁量に任せることに懸念を示した。
(Samuel Shen記者、Julie Zhu記者)

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