焦点:対米制裁合戦で守勢の中国、枯渇する「反撃の手立て」

焦点:「制裁合戦」で守勢の中国、リスクなき反撃の手立て枯渇
 5月15日、米国と中国の通商問題を巡る「制裁合戦」は、不均衡是正を目指すトランプ米政権の攻勢を受けた中国が守勢に立たされ、自国の利益を損なわずに反撃する手立てが枯渇しつつある。中国・北京で撮影(2019年 ロイター/Thomas Peter)
[北京 15日 ロイター] - 米国と中国の通商問題を巡る「制裁合戦」は、不均衡是正を目指すトランプ米政権の攻勢を受けた中国が守勢に立たされ、自国の利益を損なわずに反撃する手立てが枯渇しつつある。
中国は13日に追加関税率引き上げの対象となる米国からの輸入品600億ドル分のリストを公表したが、対象項目は米国が10日に発表した中国からの2000億ドル分の輸入品に比べて大幅に少なかった。
米国は華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]や中興通訊(ZTE)<000063.SZ>を狙い撃ちしたり、海軍艦艇に台湾海峡を通過させるなど、関税以外の面でも中国への攻撃を強めている。
関係筋によると、こうした米国の圧力の高まりを背景に、中国の指導部は米国と合意にこぎ着け、経済の長期的発展を阻害しかねない貿易戦争の泥沼を回避しようとしている。しかし米国に譲歩しすぎていると受け止められ、愛国派から反発を食らう危険も十分念頭にある。
米国の要求に応じて、国有企業や戦略的に重要なセクターに対する政府補助金や税制上の優遇措置を打ち切れば、国家主導の経済モデルが崩れ、共産党の経済支配が弱まる恐れがあるという。
中国の政策当局の内部関係者は「まだ弾は残っているが、全て撃ち尽くすことはないだろう」と述べ、あくまでも両国が受け入れ可能な合意に達することを目指す姿勢を打ち出した。
とはいえ中国が現在使える報復手段には必ずリスクが伴う。
中国が昨年7月以降最大25%の追加関税を課した米国からの輸入品は合計で約1100億ドル相当となっている。一方、米国勢調査局のデータでは、米国がさらに中国への締め付けを厳しくした場合に中国が報復のために追加関税率を導入できる米国からの輸入品は、原油や大型航空機などおよそ100億ドル相当にすぎない。対照的に米国は中国からの輸入品3000億ドル相当について追加関税率を導入することをちらつかせている。
このほか中国が追加関税を課すことができるのはサービス分野での米国からの輸入となる。昨年、米国は対中国のサービス収支で405億ドルの黒字を計上した。
しかしマクラーティー・アソシエーツのシニアアドバイザー、ジェームズ・グリーン氏によると、サービス収支における米国の黒字は大部分が観光と教育で、大幅には圧縮しにくい。
アナリストの話では、中国はむしろ非関税分野で対抗措置を講じる公算がある。例えば航空機の購入先を米ボーイングから欧州のエアバスに変更することなどだ。ただ、報復手段を関税から米企業に対する非関税障壁に移せば、中国市場は不公平との受け止め方が広がって調達や投資の面で外国企業の中国離れが起きるリスクがあるという。
折悪しくトランプ氏は米企業に対して生産拠点を米国内に戻すよう呼び掛けている。
ピーターソン国際経済研究所のロバート・ローレンス研究員は最近、記者団に対して「サプライチェーンに対する中長期的な影響が非常に過小評価されている。私が中国側ならばこの点を深刻に心配するだろう」と述べた。
米中貿易協議が行き詰まって両国が追加関税率引き上げに動くと、中国の国有メディアは国家主義的な論調を強め、中国叩きに屈しない姿勢を鮮明にした。それでも中国政府は少なくとも当面、米中対立がより大きな政治問題化するのを避けようとする、というのが専門家の見立てだ。
マクラーティーのグリーン氏は「中国指導部は、そうした事態は自分たちの利益にならないとみており、反米の機運がただちに反体制の動きに転じることを恐れている」と説明した。
アナリストは、人民元の下落は米国の追加関税導入による打撃の緩和に役立ちそうだが、急激な通貨安は資本逃避を招きかねない、と話す。中国の指導部は輸出促進のために人民元を切り下げることはないと繰り返し強調している。人民元は対ドルで年初来2%下がっているものの、当局の誘導というよりは市場取引の結果という面が強いとみられている。
投資家の間からは、中国が報復のために保有する大量の米国債を手放し、米国の借り入れコストを上昇させる展開への懸念も出ている。もっとも中国が一部の米国債を手放せば、市場に投げ売りが広がって、結果的に中国が保有する残りの米国債の価値も急落するため、こうした手段に訴えるのは非現実的との見方が大勢だ。
また中国が内需促進のための経済対策を強化すれば、米国の関税引き上げによる短期的な影響を緩和できる。輸出業者は海外販路の多角化に取り組んでおり、原材料需要を満たす目的で米国に代わる供給相手を模索する動きも見える。
(Kevin Yao記者、Michael Martina記者)

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