コラム:気候変動が企業のM&A後押しへ、問われる投資銀の才覚
Antony Currie Christopher Thompson
[ニューヨーク/ロンドン 19日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 「プジョー」を傘下に持つ仏PSAと欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の460億ドル規模の合併は、気候変動リスクが大きな動機となった初の大型合併・買収(M&A)案件になるかもしれない。ただ、企業トップが地球温暖化による業績への影響に気付く中で、今回の案件が持つ目新しさはすぐに失われるだろう。業界で優位に立つのは、気候変動問題に敏感な投資銀行だ。
投資銀行バンカーは、これまで気候変動問題にほとんど時間を割いてこなかった。投資銀行業務を含む国際的な金融サービスを展開するラザードのケン・ジェイコブス最高経営責任者(CEO)は、「ESG」(環境、社会問題、企業統治)がM&A案件において一定の役割を担うかもしれないと述べたが、案件を左右する「要因にはまだなっていない」と見なしている。
ジェイコブス氏の見解は、おおむね正しい。今年初から12月10日までに発表された100億ドル以上の規模のM&A案件39件のうち、ESGが要因となったのはPSAとFCAの合併の1件だけだ。
ジェフリーズによると、FCAがPSAと組むことにしたのは生産過剰や利益率の低さといった業界の問題への対処に加え、欧州連合(EU)が計画している排ガス規制の罰金回避が理由の1つだ。EUの規制に違反すれば20億ドルの罰金が科される恐れがある。
環境問題への対応をてこにしたM&Aは、今後も続きそうだ。鉄鋼やセメント、航空など二酸化炭素排出量の多いセクターは価格上昇や炭素税導入など予想される課題に取り組んでおり、クリーンエネルギーへの移行機運が高まっている。
ロイヤル・ダッチ・シェルは今年、オランダの再生可能エネルギー企業エネコを買収しようとしたが、三菱商事<8058.T>などの企業連合に競り負けた。シェブロン、コノコフィリップス、さらに気候変動問題で出遅れていたエクソンモービルでさえも、環境問題への対応のために企業買収に動く必要があるかもしれない。
ベテランバンカーがBreakingviewsに語ったように、仮に気候変動リスクのデューディリジェンス(精査)が実際には行われないとしても、筋の悪い案件を避けることも重要だ。コロラド川の渇水で米防衛機器・レイセオンは売上高が最大20%失われる恐れがあるが、米航空機・機械大手ユナイテッド・テクノロジーズとの1200億ドル規模の事業統合計画は、このリスクに触れていない。
米地銀BB&Tによる同業サントラスト・バンクス買収でも、フロリダ州や米南東部での洪水の可能性は無視されている。こうしたリスクが現実化すれば、気候変動問題に敏感な投資銀行は、経営トップに対してより説得力を持って助言サービスを提供することができる。
環境問題に詳しい投資銀行バンカーが、非常に少ないのは確かだ。UBSの投資銀行部門責任者だったジェフリー・マクダーモット氏は10年前にグリーンテック・キャピタル・アドバイザーズを設立してこの分野に乗り出したが、今月に入ってグリーンテックを野村ホールディングス<8604.T>に売却することに合意した。
ラザードの元M&Aバンカーのトニー・オサリバン氏とベーカー・マッケンジーの気候変動分野の法律専門家マーティジン・ワイルダー氏は最近、気候変動に関する助言と投資を手掛ける企業、ポリネーションを設立した。来年、気候変動問題に対する懸念が企業の課題となれば、PSAとFCAのような合併案件が増えるだろう。ラザードのジェイコブス氏や動きの素早いライバル投資銀にとっては、手数料を荒稼ぎする道が増えることになる。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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