コラム:英首相が採用した「ブレグジット先送り」作戦
Peter Thal Larsen
[ロンドン 22日 ロイター BREAKINGVIEWS] - メイ英首相は、英国の欧州連合(EU)離脱に関して、形だけ出ていくが実質は先送りするという作戦を採用した。
昨年6月の国民投票でEU離脱派が勝利してから15カ月、EUとの正式な離脱交渉が始まってから半年が経過した今もなお、メイ氏はどのようにブレグジット(英のEU離脱)を実行するか確たる構想を欠いている。だが2021年まで現状を維持する提案は、EU離脱が混乱に見舞われるリスクを減らしてくれる。
メイ氏が22日に行った演説は、本来なら1年前になされるべきものだった。演説内容は、歩み寄りや建設的な姿勢に満ち、以前のとげとげしく対決的な調子とは対照的だ。とはいえメイ氏が抱くブレグジットの考え方はまだあいまいで、1月に示した最初の大枠とは矛盾する。
つまり、EUの単一市場や関税同盟からは離脱すると言いながら、北アイルランドとアイルランドの国境チェックは行わないと宣言。また英国がノルウェーなどのように欧州経済領域(EEA)に加わることを拒否しながら、カナダがEUと結んだ自由貿易協定よりもすぐれた合意を締結できると主張しているのだ。
さらに英国とEU諸国が新たな関係に合意できたとしても、英国がEUを正式に離脱する2019年3月までに詳細を詰めて双方が批准するのはほぼ不可能だろう。だからこそメイ氏は時間稼ぎに動き、2年の移行期間を提案し、2021年までほぼ現状を維持することで離脱の痛みを遅らせようとしている。
もっとも具体的な移行期間はまだ定まっていない。英国とEUが移行期間設定を正式に決めるには、両者がいくつかの分野で19年3月までに合意することが引き続き前提条件となっている。メイ氏にとっては、移行期間など国民投票の結果に背くと不満を唱えるとみられる与党内のEU懐疑派を抑え込む必要も出てくる。
英国が何の合意もなくEUを出ていくリスクは完全になくなったわけではない。
それでもメイ政権は2つの重要な点を認めて受け入れた。EU離脱は厄介で痛みを伴うこと、そして現在の日程が非現実的だということだ。そこで先送り戦略が論理的な対応策となる。21年までに英国では新たな首相が登場したり、政権自体がまったく別になっているかもしれない。ブレグジットを先送りする魅力は高まっていく一方だろう。
●背景となるニュース
*メイ英首相は22日、EU離脱に際して約2年間の移行期間を設けることを提案した。
*メイ氏はフィレンツェにおける演説で、2019年3月に予定されるEUの正式離脱後に2年程度の移行期間を設定することが、英国とEU双方の利益になると発言。移行期間中、英国はEUの法令や規制に従うと説明した。また移行期間によって英政府はEUを離れる態勢を整える時間が得られ、企業や国民にとっても確実性が増すとしている。
*一方でメイ氏は、EU離脱後の欧州経済領域(EEA)への参加、もしくはカナダがEUと締結したような広範な貿易協定に回帰することは引き続き拒絶した。
*EU側のバルニエ首席交渉官は、メイ氏が「建設的な精神を表明した」と評価した上で、英国がEU離脱後も2年間は単一市場にアクセスできるメリットを享受し続けたいと求めていることについては、EUがそれを希望すれば、考慮に入れる可能性があると付け加えた。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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