コラム:EUの預金凍結案、取り付け騒ぎあおり逆効果
Neil Unmack
[ロンドン 31日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 報道によると、欧州連合(EU)は経営が悪化した銀行の預金を一時的に凍結する措置を検討している。そうした措置を導入すれば、規制当局が解決策を探るための時間は稼げるかもしれないが、取り付け騒ぎはかえって起こりやすくなり、逆効果だろう。
提案は、2008年の金融危機後に導入された銀行破綻処理の枠組みを元にしている。デリバティブのカウンターパーティ(取引相手)による担保の差し押さえを中止する仕組みだ。しかし今回の構想は予想外の方向に舵を切った。
提案の1つは、破綻処理中の銀行に認められる資金支払い猶予(モラトリアム)期間を現在の2日から5日に、場合によっては20日に延長するというもの。規制当局が銀行の資産価値を正確に査定できるよう、時間的な余裕を持たせる狙いがある。
さらに物騒なのは、通常は預金保険でカバーされている顧客の資金にもモラトリアムを適用する案だ。昨年11月に欧州委員会がいったん却下したが、最近のEU閣僚理事会で再び議論された。スペインの銀行大手バンコ・ポプラルが最近、取り付け騒ぎで資金繰りに行き詰まり、同サンタンデール銀行に買収された一件で議論の緊急性が高まった。
引き出しを凍結すればモラトリアムの実効性が増す、というのがこの措置の理屈だ。欧州の銀行が抱える預金のうち、4分の3は預金保険でカバーされている。
しかし、こうした措置は効用よりも大きな痛みをもたらすだろう。2日ではなく5日間かけて資産を評価しても、たいして正確性は高まらないかもしれない。凍結期間が長引くとデリバティブ契約に盛り込まれたモラトリアムが無効になりかねないとの指摘もある。預金を凍結すれば銀行のブランド価値はさらに傷付き、身売りが困難になるかもしれない。凍結される恐れがあれば、銀行の経営が危ぶまれた途端に顧客が預金を引き出そうとする可能性は、今より高まりそうだ。
確かに、いったん凍結が解かれれば、預金者は預金保険制度から資金の払い戻しを受けられるだろう。また、規制当局はより大きな危機の引き金を引くのを恐れ、実際には凍結に踏み切らないかもしれない。しかし、当局がこうした構想を取沙汰するだけでも預金者はより不安に、銀行はより脆弱になりそうだ。
●背景となるニュース
*ロイターが28日に報じたところでは、EU諸国は経営破綻しそうな銀行の預金を一時凍結する案を検討している。
*議長国エストニアが用意した文書によると、預金の引き出しは5営業日停止され、特別な事情がある場合は最長20日まで停止を延長できる。
*EU高官がロイターに語ったところでは、加盟国代表は7月13日にエストニアの提案を協議したが、結論は出なかった。話し合いは9月に持ち越された。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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