コラム:製造業に世界的逆風、中国の変調長期化なら日本の回復にも影響

コラム:製造業に世界的逆風、中国の変調長期化なら日本の回復にも影響
 7月12日、日米欧で貿易量の減少を背景に、製造業に逆風が吹いている。その一方、非製造業は製造業ほど落ち込んでおらず、2019年後半の回復シナリオが実現するかどうかは、この製造業と非製造業の「力比べ」の結果が直結しそうだ。2月撮影(2019年 ロイター/Kim Kyung-hoon)
田巻一彦
[東京 12日 ロイター] - 日米欧で貿易量の減少を背景に、製造業に逆風が吹いている。その一方、非製造業は製造業ほど落ち込んでおらず、2019年後半の回復シナリオが実現するかどうかは、この製造業と非製造業の「力比べ」の結果が直結しそうだ。その帰すうは不透明だが、米中貿易戦争の長期化による中国経済の「変調」が長期化すれば、製造業に引っ張られて世界経済の回復が弱まり、つれて日本経済の回復も先送りされるシナリオの実現可能性が高まる。
<パウエル議長の弱気と世界貿易>
今年4月ごろまで、日本では当局も含め、米経済の強さを強調する声が多数派だった。しかし、今月10日に米下院金融サービス委員会で行われたパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の証言内容は、率直に米製造業の弱さを指摘した。
同議長は「製造業、貿易、投資は総じて世界的に低調」であるとし、そうした動きが「米経済において表面化している」と述べた。具体的には「企業投資の伸びは、著しく鈍化したもよう」とし、「貿易摩擦や世界経済の減速への懸念を反映している可能性がある」と分析した。
実際、米供給管理協会(ISM)が1日に発表した6月の製造業景気指数は、前月の52.1から51.7へと低下した。これは2016年10月以来、2年半ぶりの低水準だ。
背景にあるのは、貿易量の低下だろう。オランダ経済政策分析局によると、今年4月の世界の貿易量は前月比0.7%減と前月の同0.8%増から急減速した。
世界の貿易量は17年が4%台、18年が3%台の増加で推移してきただけに、足元における動きは、「急停車」と表現すべき現象と言える。
この動きに最も大きな影響を与えたのが、米中貿易戦争であることも、ほぼ間違いのない「推理」であると考える。
製造業の「弱さ」は、米国だけでない。8日に発表されたドイツ貿易統計では、輸出が前月比1.1%増と前月の同3.4%減という落ち込みをカバーし切れず、輸入が同0.5%減となり、内需の弱さを印象付けた。
日本でも6月日銀短観で、大企業・製造業の業況判断DIが2期連続で悪化し、16年9月調査以来の低水準となった。
輸出依存割合の高い企業が含まれる製造業では、米中貿易戦争のあおりを真っ先に受け、先行して業績が悪化している構図となっているようだ。
11日に2019年3─5月期連結決算を発表した安川電機<6506.T>はその典型例と言え、営業利益が前年比58.2%減となった。
<鍵握る中国経済の動向>
だが、対照的に各国とも非製造業は「健在」。パウエル議長も10日の証言で、第1四半期の「米消費支出の伸びは脆弱だったが、その後持ち直しており、足元では底堅く推移している」と指摘。製造業の不振が、直ちに非製造業へと波及しているわけではないことを強調した。
日本でも、6月短観で大企業・非製造業の業況判断は改善しており、製造業と非製造業の判断が分断されている。
政府・日銀が描いている今年後半の景気回復の鮮明化が実現するには、この製造業と非製造業の「力比べ」が、非製造業側に有利になることが絶対条件。言い換えれば、製造業への逆風が弱まるシナリオの可能性が高まれば、景気回復力が増す。
その条件として、民間エコノミストらが思い描いているのが、中国が景気対策を追加で打ち出し、中国経済が低迷から浮揚へとシフトすることだ。
ただ、米国が中国に課している2500億ドル規模の輸入品への25%関税はそのままとなっており、中国経済には大きな障害となっている。
19年上半期の対米貿易(人民元建て)は前年同期比9%減となり、同じ時期の輸入(同)は対米で25.7%減、全体でも同1.4%増の伸びにとどまった。6月の中国製造業PMIは49.4と4カ月ぶりに50を下回っている。
過剰債務に直面している中国経済では、金融緩和の効果が需要増へと向かうルートがうまく機能していない可能性があり、そこに米国向け需要の削減が重なって、G7諸国の想定を超えて、マクロ経済運営にきしみが生じているのではないか。
中国経済が、このまま「不調」を続ければ、世界経済の年後半回復はおぼつかず、日本経済の回復シナリオにも不透明感が強まるだろう。
加えて日本では、10月から消費税率が引き上げられる。7月の東京は、26年前の低温記録に並び、冷夏の可能性もささやかれ出した。
中国からの「冷たい風」が吹き続けば、日本経済の体温が下がってしまうのは避けられそうもない。
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