コラム:第2波襲来なら、株価より雇用が危機

田巻一彦
[東京 26日 ロイター] - 米国で新型コロナウイルス感染者が急増し、第2波襲来への懸念が高まり始めた。世界的に感染が再拡大すれば、2021年の世界経済も停滞が続き、日本経済にとってもマイナス成長の長期化につながる。652万人の休業者は満水のダムであり、景気悪化の長期化はダムの崩壊リスクを高める。短期的には雇用調整助成金の増強、中長期的には雇用の受け皿になる新ビジネス支援に資金を投入すべきだ。
<IMFが懸念する第2波の影響>
25日の全米の感染者は3万9818人増となり、1日当たりの感染者としては過去最多を記録。米テキサス州のアボット知事は同日、感染者や入院患者の急増を受け、州の段階的な経済再開を一時停止すると表明した。米株式市場も24日にダウ<.DJI>が770ドル超の下落となるなど、最近の米国における感染拡大に神経質になっている。
ただ、25日のNY市場や26日の東京市場で株価は堅調。第2波への警戒感は根強いものの、米国はじめ主要国の財政・金融政策の積極的な展開を受け「マーケットは大崩れしない」(外資系証券)との安心感が、市場が「崩落」しないように支える構図を形成している。
それよりも心配なのは、実体経済の動向だ。国際通貨基金(IMF)は24日、世界経済見通しの中で第2波襲来のケースでは、2021年の成長率がプラス0.5%にとどまるとの予想を示した。襲来しない場合はプラス5.4%の成長を見込んでおり、第2波が来るシナリオでは、世界経済に急ブレーキがかかると見ている。
<日本も2年連続マイナス成長のリスク>
潜在成長率が0.5%程度しかない日本は、第2波襲来なら2020年に続いてマイナス成長になる可能性が出てくる。IMF見通しの2020年日本経済はマイナス5.8%。この発射台で21年もマイナス成長になった場合、大企業から中小・零細企業に至るまで、売り上げが損益分岐点を下回る企業が続出しかねない。
株価に関しては、日銀の信用緩和の強化で短期的に経営が悪化しても「日銀が社債を買うのでつぶれない」(大手銀関係者)との見方が台頭し、業績悪化イコール株価下落という図式にはなりにくい地合いになっている。したがって今後、日本にコロナ感染の第2波が襲来しても、株価急落をきっかけにした信用秩序のスパイラル的な崩壊は起きにくい「歯止め」が形成されたとみることができる。
ところが、別の落とし穴が待ち構えている。それが「雇用問題」だ。今年4月の休業者は652万人に上っている。企業が雇用調整助成金などを国から支給され、解雇せずに抱えている人数だ。
雇用調整助成金は9月30日までの緊急対応期間を過ぎると、その後に支給されるのは年間100日が上限になっている。今のスキームでは今年12月に入ると連続支給の上限に到達する。つまり年末になっても業績が回復しない企業は、休業者を解雇するのか継続雇用するのかという重大な岐路を迎えるということだ。
<652万人の休業者、満水のダム状態>
すでに4月の段階で、就業者は前年比107万人減少し、非労働力人口は97万人増加した。もし、652万の休業者から100万人単位で解雇者が出た場合、日本の労働市場は一気に不安定化し、社会不安に結びつくリスクも出てくる。
この先、世界的に感染の第2波が襲来しても、日本の労働市場が動揺しない政策対応を今のうちから具体的に検討するべきだ。
私は以下の点を提案したい。まず、短期的対応として雇用調整助成金の支給期間を延長するべきだ。医学的な治療に例えれば、「解熱剤」「鎮痛剤」の投入と言える。ただ、それだけでは身体のバランスが崩れてしまうので、中長期的な対応が必要になる。
そこで提案したいのは、コロナ感染を拡大させない新しい社会生活のニーズに着目したニュービジネスへの参入者に対し、持続化給付金の交付に似た新しいスキームによる資金貸付制度をスタートさせ、「起業」のバーを低くすることだ。
また、社会のIT化やリモート化が進むにつれ、「モノの配送」を担う人材の確保が急務になる。この分野はコロナ問題の顕在化の前から、人手不足が最も顕著だっただけに、人員が余剰になった分野からスムーズに人材がシフトできるスキームを構築することが喫緊の課題であると考える。
困った時の「公共事業」は、コロナ時代では通用しないことが判明した。新しい時代に適合した新しい「雇用政策」をどうするべきか──。政策当局や学識経験者だけでなく、広く民間の意見もすくい上げて、来るべき「雇用危機」に備えてほしい。
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編集:石田仁志

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