コラム:5月家計調査の衝撃、米国より弱い日本の消費マインド

コラム:5月家計調査の衝撃、米国より弱い日本の消費マインド
 7月7日、日本の5月家計調査は新型コロナウイルス感染による衝撃の大きさを見せつける結果になった。写真は5月26日、東京・銀座で撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)
田巻一彦
[東京 7日 ロイター] - 5月家計調査は、新型コロナウイルス感染による衝撃の大きさを見せつける結果になった。大幅に伸びた5月米小売売上高と比較すれば、日本の消費マインドがいかに痛めつけられたかがわかる。5月に不振だった外食などは6月に入っても夜間の集客数が戻り切らず、夏休みの旅行も予約の出足は鈍いままだ。7─9月期の国内総生産(GDP)で期待されている需要の回復も、力不足となる危険性が高まっている。
<収入増でも減る消費>
5月家計調査は、全世帯(単身世帯除く2人以上の世帯)の消費支出が前年比16.2%減少と過去最大のマイナス幅となった。勤労者世帯の実収入(2人以上の世帯)が、実質、名目ともに前年比9.8%増と過去最大の上げ幅になったにもかかわらずだ。一律10万円の給付金が一部で支払われ、その効果が出ていたが、消費は落ち込んでしまった。
その要因は、総務省が公表した消費行動に大きな影響がみられた品目・サービスの一覧から推定できる。いわゆる巣ごもり対応品と知られるパスタの購入額が前年同月比38.8%増、「家飲み」効果でチューハイ・カクテルが同52.6%増、家事消耗品が同45.2%増と大幅に伸びた。
一方、宿泊料が同97.6%減、パック旅行費が同95.4%減、映画・演劇等入場料が同96.7%減と大幅に落ち込み、鉄道運賃も同86.0%減、飲食代が同88.4%減となった。
すでに指摘されていることとは言え、外出自粛やテレワークシフトなどでカットされた支出項目の減り方が目立つ。
一方、米国では5月小売売上高が前月比17.7%増と、市場予想の8%増を上回り、1992年の統計開始以降で最大の伸びを記録。新型コロナウイルス流行の影響で過去最大の落ち込みとなった前月の14.7%減(改定値)から大きく持ち直した。
足元でコロナ感染再拡大により制限措置を復活させている州もあるが、日本と比べて消費者のマインドは相当に強い。
<旅行・外食の回復力は微弱>
日本の場合、問題は6月以降に支出減少の項目が「復活」するかどうかだ。レストランや居酒屋などの外食関連からは「ランチタイムの客はコロナ前の6-7割まで戻ってきたが、夜の集客が以前の半分以下」(都心部の飲食店)との声が多く、客足は戻ってきていない。
また、読売新聞が6日に公表した世論調査では、67%が夏の旅行は控えると回答。実際、政府が8月上旬から実施しようとしている「Go To キャンペーン」適用の商品がはっきりしないため、夏休みの旅行の予約状況は出足が鈍いと言われている。
5月は鉄道運賃だけでなく、背広服購入も同64.7%減と落ち込んだ。これにはテレワークへのシフトが大きく影響していると思われる。なかなか実施できない中小・零細企業も確かに存在するが、富士通<6945.T>のようにテレワークを就業の原則に切り替えるところが増加すると予想され、関連して減少する費目が、元通りに回復するのは難しいだろう。小田急電鉄<9007.T>や京浜急行電鉄<9006.T>などの鉄道各社は運賃収入の減少を受けて役員報酬のカットを決めた。一過性の売りげ上減少ではない可能性があり、危機感を強めているようだ。
<根強い感染リスクへの懸念>
また、サッカーのJリーグでは、10日からの試合に5000人を上限にチケットを売り出したが、多くの試合でチケットの売り残りが出ているという。サポーターの中に感染リスクへの懸念が予想以上に根強いことが原因とみられている。
プロ野球でも10日から同様に5000人を上限に集客を始め、8月1日からは定数の半分を上限にチケットを販売する予定。もし、Jリーグと同様に客足が鈍い場合、ファンのコロナ感染への懸念に対し、どのように対応していくのか新たな課題が浮上することにもなりかねない。
米国に比べてリスクに慎重な国民性は、東京都内でのコロナ感染による重症者が9人(6日現在)にとどまっていることなど、医療体制の崩壊を回避できているというメリットを生み出している。
一方、これまで見てきたように、消費マインドの回復テンポが鈍く、日本経済全体の回復スピードも、従来の予想より緩慢になる可能性がある。もし、東京都で続いている感染再拡大の動きが一段と鮮明になれば、7─9月期の国内総生産(GDP)が前期比マイナスとなる「最悪シナリオ」を「空論」と言えなくなるだろう。
政府・日銀は、これまでにも増して消費動向を注視し、機敏に対応できるよう今から「ウォームアップ」に取り掛かるべきだ。
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編集 石田仁志

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