コラム:サウジの新皇太子、最初の試金石は原油価格回復
Andy Critchlow
[ロンドン 21日 ロイター BREAKINGVIEWS] - サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子は皇太子に昇格して王位継承第1位となり、経済改革の遂行に向けて権限が増大したばかりか、サウジが中東湾岸の隣国に積年の恨みは晴らす上でも影響力が増した。しかし比較的速やかに成果を上げることができるのは低迷する原油価格への対応だ。
サウジのサルマン国王は21日、お気に入りの息子であるムハンマド氏を皇太子に昇格させ、国王のおいであるナエフ皇太子は全職務を解任された。今回の人事は規定路線で、問題はタイミングだけだった。31歳のムハンマド氏はサウジの社会・経済の近代化の推進を担い、国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)や巨大政府系ファンド(SWF)の設立を進めてきた。ただ同時にムハンマド氏は、隣国カタールを宿敵であるイラン寄りに傾き過ぎているとして断交したサウジの最近の政策を主導したともみられている。
権限が拡大したムハンマド氏にとっては、原油価格の50ドル台回復が最初の試金石になるだろう。ムハンマド氏は石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEC加盟国の減産合意をサウジが支持する上で重要な役割を果たすなど、既にサウジの石油政策に深く関与している。問題はムハンマド氏の戦略がこれまでのところ失敗していることだ。米国の原油生産は予想以上のペースで持ち直し、世界の原油在庫はなお極めて潤沢。国際エネルギー機関(IEA)のまとめによると、先進国の原油在庫は過去5年平均を2億9200万バレル上回っており、これはサウジの現在の生産量の29日分に相当する。
OPECは減産強化などのために加盟国に対して緊急会合の開催を呼び掛ける必要があるかもしれない。こうした動きを取るにはサウジの皇太子の承諾が欠かせない。しかしサウジは、同じくOPEC加盟国であるカタールへの態度を和らげる必要があるかもしれない。ムハンマド氏としては、カタールやイランに対して極めて強硬な路線に向かうのか、それとも原油価格の回復に取り組むのか、を迫られることになる。王位継承が確実となった今、ムハンマド氏は油価回復に取り組む道を選ぶだけのゆとりを手に入れた。
●背景となるニュース
*サウジアラビアのサルマン国王は21日、息子のムハンマド・ビン・サルマン副皇太子兼国防相を皇太子に昇格させた。王位継承第1位となり、副首相と国防相を兼務する。国王のおいであるナエフ皇太子は全職務を解任された。
*ムハンマド氏は31歳。経済改革を押し進めており、イエメン問題や対カタール外交など中東地域の課題を取り仕切ってきた。王位継承を協議する「忠誠委員会」ではメンバー34人のうち31人が今回の皇太子人事を支持した。
*ムハンマド氏が皇太子に昇格したとの報道を受けて、北海ブレント原油は46ドルを割り込んだ。一方、サウジの主要株価指数は一時3%超上昇した。株価指数の開発・算出を手掛ける米MSCIは20日、サウジアラビアを新興国株指数に組み入れるかどうか今後検討するとした。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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