視点:「白いブラックスワン」飛来、2018年3万円の現実味=武者陵司氏

視点:「白いブラックスワン」飛来、2018年3万円の現実味=武者陵司氏
 1月4日、武者リサーチの武者陵司代表は、2018年の日本株相場は潮目の大転換の年となり、日経平均のフェアバリュー(適正値)下限である3万円をうかがう展開が期待できると予想。東京証券取引所で4日撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
武者陵司 武者リサーチ代表
[東京 4日] - 2018年の日本株相場は、潮目の大転換の年となり、日経平均のフェアバリュー(適正値)下限である3万円をうかがう展開が期待できると、武者リサーチ代表の武者陵司氏は予想する。
2017年10月の日経平均16連騰は「白いブラックスワン」(予期せぬ究極のポジティブサプライズ)であり、東京オリンピック開催年の2020年前後にフェアバリュー上限の4万円超えを試す可能性も出てきたと分析。セクター別では、中国の「ハイテク爆買い」を背景に、数十年ぶりに日本のエレクトロニクス企業群が経済成長と投資対象の主役に躍り出る公算が大きいと読む。
同氏の見解は以下の通り。
<3年後4万円視野、歴史的大相場の幕開け>
2018年は、端的に言えば、株式市場が非常に強い年となるだろう。日本株を巡っては、2017年に2つのエポックメイキングな出来事が起こった。
1つは日経平均の16連騰だ。これは戦後主要国の株式相場を見渡しても、歴史上いまだかつて観測されたことのない連騰記録であり、ギネスブック級と言っていい。「ブラックスワン」が予期せぬネガティブサプライズならば、これは予期せぬ究極のポジティブサプライズ、「白いブラックスワン」と命名できるほどの奇跡だ。
もう1つは、この白いブラックスワンのおかげもあるが、日経平均が高値からの半値戻しを達成したことだ。テクニカルアナリストがよく口にする投資の格言に「半値戻しは全値戻し」がある。この格言に従えば、バブル期の1989年末に付けた日経平均の史上最高値3万8915円が、視野に入ってきたと言える。
このような株高予想の最大の根拠は、デフレマインドが和らぎ、人々が極端なリスク回避・安全志向を改め、積極的なリスクテークで高いリターンを求めるようになってきたことだ。
日本株のポテンシャルは大きい。なにしろ2017年まで日本の投資の中心は、圧倒的に現預金、いわゆる安全資産だ。国民金融資産の実に7割を占める。これに対して、米国の金融資産内訳は、安全資産2割、リスク資産7割と真逆だ。むろん、米国の状況は高望みでも、その方向へ少し向かうだけで、強烈な需給改善と大幅な株高が期待できよう。
おそらく2017年から起きている大きな株価上昇波動は、そのような需給の地殻変動の先駆けだった可能性が高い。2018年は、それが大きな奔流となり、潮目の大転換の年となるのではなかろうか。
デフレ脱却後の日本株のフェアバリューは「配当利回り=10年国債利回り」となる水準だと考えられるが、その相関からはじき出すと、およそ3万円から4万円と試算される。上記のような好材料を考えれば、2018年後半にまず下限の3万円をうかがい、さらに2020年の東京オリンピック前後には4万円をトライするような歴史的大相場が始まりつつある可能性が濃厚ではないかと思う。
<中国のハイテク爆買いで潤う日本企業>
セクター別に言えば、数十年ぶりに、日本のハイテクセクターが経済成長と投資対象の中枢に座る年となる公算が大きい。
第1の理由は、世界的なIoT(モノのインターネット)関連投資の盛り上がりだ。あらゆるものがつながる時代に向けたインフラストラクチャー構築がいよいよ本格化している。
通信や半導体の技術革新のスピードには目を見張るものがある。例えば、移動体通信の世界では、現行の4Gから5Gに2020年に移行することで、通信速度は10倍となり、通信コストは10分の1まで劇的に下がる。スマートフォン誕生からの10年間をはるかに上回るような、革新的サービスが次々と出てくるだろう。
第2の理由は、中国のハイテク爆投資だ。中国は投資によって経済成長が維持されている国だが、換言すれば、投資を止めれば、経済成長も止まり、ただちに経済危機に陥る心配がある。その国が、ハイテクに照準を絞って、巨額な投資を始めている。
この作戦は正しい。ハイテクは確かに金(かね)食い虫だが、経済学で言う「収穫逓増の法則」(規模の経済)が一番顕著に当てはまる分野であり、投資を続ければ勝てる見込みが大きい。しかも、中国は共産党一党独裁の下で、タダ同然のマネーを際限なく政策主導でつぎ込むことが可能だ。
実はこのようにハイテクブームが中国主導で世界に広がるとき、日本は一番おいしいポジションに立っている。IoTや自動走行、ドローンなど新たなイノベーションに必要な周辺技術、基盤技術のほぼ全てを兼ね備えている産業構造を持つ国は日本だけだからだ。
中国、韓国、台湾はハイテクそのものには投資していても、その周辺や基盤は日本に依存している。言い換えれば、日本のエレクトロニクス企業群は、このイノベーションブームの到来に際して、最も適切なソリューションを世界の顧客に提案・提供できるという唯一無二の強みを持っている。2018年以降は、その強みが花開くのではないだろうか。
<2018年は平成総まとめの年>
最後に1つ言い添えれば、2019年4月30日に天皇陛下が譲位し、新しい元号となる。よって、2018年は、平成のまとめの年になると言えよう。平成の30年間とはいったいどのような時代だったのか、皆が改めて考える年になる。
私見を述べれば、平成とは、日本が戦後の高度成長に伴うごった返しのドサクサをきれいに整理して、謙虚になり、グローバルシティズン(世界の市民)として、国民も企業も持続的な成長にふさわしい心構えを学んだ時代ではなかったのか。特に平成の後半はこれからの成長の土台を見事に作った期間だと思う。2018年は、平成の次に来る新しい繁栄の時代の予兆がかなりはっきりと見える年になるだろう。
*本稿は、特集「2018年の視点」に掲載されたものです。同氏の個人的見解に基づいています。
*武者陵司氏は、武者リサーチ代表。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。87年まで企業調査アナリストとして、繊維・建設・不動産・自動車・電機エレクトロニクスなどを担当。その後、大和総研アメリカのチーフアナリスト、大和総研の企業調査第二部長などを経て、97年ドイツ証券入社。調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。2009年より現職。
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