コラム:米雇用の力強い伸びが隠す「痛み」
Gina Chon
[ワシントン 7日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 力強い雇用統計の数字は、働く世代の米国男性たちの痛みを覆い隠している。6月の非農業部門雇用者数は前月比22万2000人増加し、失業率は上がったとはいえ4.4%と非常に低い水準を保った。しかし同時に、オピオイド系鎮痛剤の乱用や刑務所への収監件数の多さが、多くの男性の労働力人口への参入を阻み続けている。
米経済全般は2008年の金融危機以降に回復の道をたどってきたが、25歳から54歳までの男性の労働参加率は、1950年代の98%から約88%まで低下してしまった。これらの男性のうちおよそ1000万人が失業、もしくは求職活動をしていない状態に置かれ、その数は08年の2倍前後に上る
その理由の1つは、鎮痛薬の使用頻度が極めて高いことだ。米疾病予防管理センター(CDC)によると、1日当たり1000人がオピオイドの乱用によって緊急治療を受けている。働く世代で労働市場で活動していない男性の半分近くは、毎日鎮痛剤を服用していることが、元経済諮問委員長のアラン・クルーガー氏が最近実施した調査で分かった。
クルーガー氏の調査では、約4割が痛みのせいでフルタイム労働ができないと話している。オピオイドの乱用はしばしば、より安価なヘロインに手を出すことにつながり、米国で1日に100人程度がオピオイド関連で死亡する事態を招いている。米連邦準備理事会(FRB)は最近、一部の求職者がドラッグテストを通過できなかったと指摘した。
刑務所への収監件数が高水準に上っているという問題もある。投獄されたことがある働く世代の男性500万人は、犯罪歴のない人々よりも仕事を見つけるのが難しい。やはり元経済諮問委員長のジェーソン・ファーマン氏が調べたところ、投獄経験のある男性の労働参加率の低さが全体の参加率を少なくとも1%ポイント押し下げているという。
共和党が提案している医療保険制度改革(オバマケア)改廃によって、向こう10年でメディケイド(低所得者向け公的医療保険)向けの予算が8000億ドル前後も削られる。これはオピオイド治療の取り組みに打撃を与えるだろう。一方セッションズ司法長官は、暴力性のない薬物事件犯罪者の投獄を減らしていた前任者の方針を覆し、厳しい処罰を加えることを提唱している。だがもっと賢明な政策決定をすれば、再び働ける男性を増やすことができる。
●背景となるニュース
*米労働省が7日発表した6月の非農業部門雇用者数は前月比22万2000人増で、失業率は4.4%に上昇した。ロイターがまとめたエコノミスト予想は17万9000人増だった。
*平均時給は0.04ドル高の26.5ドル、労働参加率は微増の62.8%。
*4月と5月の非農業部門雇用者数の伸びは4万7000人上方改定された。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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