コラム:米朝首脳会談への批判は「的外れ」

Peter Van Buren
[9日 ロイター] - ドナルド・トランプ氏は意外にも、北朝鮮の指導者と会談する史上初の現職米国大統領となることに同意した。
これに対する反応は、慎重な楽観論からトランプ政権の経験不足に対する警告、徹底的な批判に至るまで、多岐にわたる。だが、こうした批判は容易に払拭(ふっしょく)できる。
1つ目の批判は、トランプ大統領が北朝鮮を「正当化」するというものだ。しかし米国政府はすでに、北朝鮮を国家として認めている。非武装地帯や第3国や国連での協議、そして2000年には米国務長官による平壌訪問、また、クリントン、カーター両元大統領による訪朝など、米国は約70年にわたり、北朝鮮政府と交渉してきた。
一方、祖父から父、父から息子へと継承されてきた金一族による北朝鮮支配は、その創設以来、戦争や制裁、飢饉(ききん)や天災、そしてソ連というパトロンの崩壊を乗り越えてきた。
指導者の金正恩(キム・ジョンウン)氏は国民から神とあがめられる一方、部外者はずっと同氏に関する評価を構築してきた。したがって、プロパガンダによるクーデターは必要ない。
米国には、独裁者と交渉し、支援すらしてきた過去がある。好むと好まざるとにかかわらず、北朝鮮はすでに核保有国である。トランプ大統領であろうとなかろうと、「正当化」の基準はずっと満たされているようだ。
国務省が骨抜きにされていると言う人もいる。現在、韓国に米国大使はおらず、北朝鮮担当特別代表も退任した。だが、メディアに名が知られていないからという理由だけで、北朝鮮と交渉する人が誰も残っていないと主張するのは誠実とは言えない。
マーク・ナッパー駐韓代理大使は20年以上、朝鮮半島問題に携わった経験がある。複数回に及ぶ訪朝歴があり、韓国からの信頼も厚い。エドウィン・サガートン駐韓米大使館政務公使参事官も朝鮮半島で何年も過ごし、北朝鮮で仕事をした経歴を持つ。
釜山の米国領事館のデ・B・キム領事はソウルで生まれ、朝鮮半島問題に約20年間携わっており、当時のオルブライト国務長官が訪朝の際には同行した。この3人は皆、朝鮮語を話す。
米国にとって、ユン北朝鮮担当特別代表の退任は痛手だが、代行を務めるマーク・ランバート同副代表も朝鮮半島問題に関する知識に長けており、北朝鮮の核プログラムを巡る6者協議では特使を務めた経歴の持ち主だ。
また、トランプ大統領の努力を支援する上で、韓国外交官だけでなく、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)や中央情報局(CIA)、軍部によって長年培われた専門知識もある。米朝首脳会談の準備を懸念する向きもあるが、彼らは自身の全キャリアをかけて準備してきている。
もう1つの批判は、いきなり首脳会談で始めるのは間違っている、というものだ。トランプ大統領はすでに大きな賞金を与えてしまった。こうした主張は1972年、訪中して国交を正常化した当時のニクソン米大統領への批判に使われた。
北朝鮮の場合、首脳会談に至る下位レベルの協議開催という考えは無意味である。北朝鮮の外交関係の方向を決めるのは金氏であり、同氏にとって重要なのは、このプロセスが自身の完全な承認によって前進することを示すことである。北朝鮮の正式な指導部が明確に示さない限り、金氏の代わりに同国の下位レベルの当局者が小さな勝利を宣言することを許されるなどあり得ないだろう。
歴代の米大統領は、進展が見られるまで首脳会談を退けてきた。結果として、何ら現実的な進展はこれまで見られなかった。北朝鮮政府はトップダウン方式であり(米国のトランプ政権も同じだという人もいる)、そのように対応する必要がある。
首脳会談から始めるべき他の理由として、米朝間には、準備のロジスティクスや詳細を円滑に行うために重要な中間レベルの接触や関係といった外交ルートがほとんど存在しないことが挙げられる。両国共に、首脳会議を利用して、多くの問題にさいなまれることの多いティラーソン米国務長官のような外交官に力を与えることも可能だ。
そして最後の批判は、北朝鮮が交渉に真剣ではない、というものだ。だが北朝鮮は、韓国で先月開催された平昌冬季五輪に、正恩氏の承認のシグナルとして実妹の金与正(キム・ヨジョン)氏と、指導部の承認のシグナルとして90歳の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長を派遣することにより、真剣であることをはっきりと示した。
北朝鮮の歴代指導者3人全員に仕えている金永南氏は過去に外務次官を務め、軍の信頼も厚い。米国は、核開発には直接関与していないことを表向きの理由として、同氏を制裁リストから慎重に外している。それはつまり、同氏がワシントンに自由に渡航できることを意味しており、今後は中心的存在となるだろう。
では、次に何が起きるか。
まずは時間をかけて、金正恩氏を信頼することだ。一方のトランプ氏も、融和的な措置と、限定的だが重要な国内強硬派向けの好戦的な態度とのバランスを取る必要があるだろう。
2人の首脳会談が実現した場合、スポーツや学術の交流や、北朝鮮で拘束されている米国人3人のうち1人あるいはそれ以上の解放、朝鮮戦争で亡くなった米国人または韓国人兵士の遺体捜索というような、それほど複雑ではないものから合意に至ると予想される。北朝鮮が自ら申し出た核実験の一時停止を延長する可能性がある一方、米国も予定されている米韓共同軍事演習の限定的変更に同意するかもしれない。
そうした小さな積み重ねによって信頼は構築される。それは、最終的に米国とソ連が緊張を緩和するため、さまざまな種類の兵器を使用停止するに至った冷戦時のような交渉スタイルにつながる可能性がある。金・トランプ会談で非核化に近づくというように考えるのはばかげており、歴史的にナンセンスである。
米国は、金氏による米朝首脳会談の申し出を米国に伝え、仲介役を務めている韓国に引き続き先導させるべきだ。ホワイトハウスは、トランプ大統領が首脳会談の開催に同意したという発表を巧妙に韓国側に発表させた。最終的な融和は韓国と北朝鮮によって行われる。結局、最もリスクに直面しているのはこの両国である。
両国指導者の中には、朝鮮戦争の戦火をくぐり抜けた人たちも含まれている。彼らは「私たち対彼ら」という朝鮮語の感覚に基づく強い感情的なつながりを持ち続けている。ここでいう「私たち」とは朝鮮民族全体を指す。彼らは民族としての死活問題に直面しており、自分たちの遺産を意識している。米朝首脳会談は、現世代の死活問題である。
交渉は必ずしも公平なギブアンドテイクとは限らない。また、それは弱さを示すものではなく、強さとスキルを示すものである。冷戦時のように、朝鮮半島における成功は、どれだけ戦争が起きない状態を保てるか、また戦争はあり得ないとの感覚を保てるかによって決まるだろう。
トランプ大統領と金氏が会談することに批判的で、どのような進展にも揚げ足を取るような人たちは、戦争に代わるものである外交とは、敵を無視するのではなく、彼らと話をするという大変な仕事を意味するということを思い出すべきだ。
*筆者は米国務省に24年間勤務。著書に「We Meant Well: How I Helped Lose the Battle for the Hearts and Minds of the Iraqi People」など。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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