コラム:崩壊寸前のベネズエラ、「再建」できるか
Martin Langfield
[ニューヨーク 4日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 南米の産油国ベネズエラが破綻国家の様相を呈しつつある。過去5年で経済規模が半減し、国民の1割以上が国外に去った。
多くの問題の元凶となったのはマドゥロ大統領だが、今なお権力の座にとどまっている。ただし、野党指導者のグアイド国会議長が「暫定大統領」就任を宣言し、米国など西側諸国の支持を得ている。
マドゥロ政権が崩壊した場合、ベネズエラは基本機能を回復するために外国の友人の助けが必要となる。その場合、融資や投資が最善の策となるだろう。トランプ米大統領が3日示唆したような米国による軍事介入ではない。
ではどのようにすればベネズエラを再建できるか、以下にまとめた。
●コストはどのくらいか
当初は年間150億─200億ドル(約1.6兆─2.2兆円)とみるのが妥当だろう。これはベネズエラの経済学者フランシスコ・ロドリゲス氏が、昨年の大統領選で支持していたアンリ・ファルコン候補の選挙活動中に試算していた推定額だ。民間投資のほか、国際通貨基金(IMF)などの国際金融機関が融資を提供する必要がある。
最近では、かつてベネズエラ企画相を務めた米ハーバード大学のリカルド・アウスマン氏が、数年間で600億ドル超、恐らく800億ドル程度の資金が必要と試算している。
●膨大な額に聞こえるが
何とも言えない。ベネズエラには豊富な原油がある。3000億バレルの埋蔵量が確認されており、世界最大を誇る。
●だが、ベネズエラの石油産業は混乱している
その通りだ。生産量は2013年の日量240万バレルから、今年は同100万バレル未満に減少する見通しだ。投資不足や熟練スタッフの離職、そして業界の専門知識よりもマドゥロ大統領への忠誠心で知られる軍当局者の幹部任命が原因だ。
それでも、2013年の生産レベルが回復するなら、1バレル当たり50ドルと仮定すると、国営石油会社PDVSAは、2年以内に800億ドルの収益を上げることができるだろう。
●マドゥロ氏の政敵はPDVSAを民営化するか
グアイド氏が先週提示した再生計画によると、民営化はない。同計画では、PDVSAを再編するが、「炭化水素セクターに重点を置いた競争力のある公営企業」として国営にとどめおくという。
しかし、新たな法律により、エネルギーセクターに対する外国や民間からの資本を歓迎し、石油プロジェクトの出資比率で民間資金が過半を占めることを可能とし、競争力のある税率を設定し、炭化水素鉱床の「効率的な専門管理」を監視する新しい規制当局を創設する。
同計画の策定に関与した経済学者のホセ・トロ・アルディ氏は、7年以内に日量300万バレルの生産を回復できるが、そのためには年間250億─300億ドルの投資が必要だとしている。
●他にはどんな計画があるか
概要によると、グアイド氏は、市場メカニズムと経済的自由の回復や、価格統制の解除、独立した司法制度の回復、治安部隊の非武装化、栄養失調と病気のまん延をもたらした基本的食料や医薬品不足への速やかな対応を約束している。最貧困家庭に対しては、自活できるようになるまで「直接的な補助金」も必要だとしている。
●ハイパーインフレにはどう対処するのか
一部の経済学者は、信用を落としたベネズエラの通貨ボリバルに代わり、米ドルを導入することがインフレを止める最善策だと主張している。IMFによると、同国のインフレ率は今年、1000万%に達するとみられる。
グアイド氏の計画はドル化を支持していないが、国際金融機関などから「受けた資金に支えられた安定した為替制度を採用」するとしている。
●対外債務については
ベネズエラは対外債務のほぼすべてにおいてデフォルト(債務不履行)している。国や公共団体による債務、収用を巡る裁判の和解金、未払いの請求書など、1400億ドル以上の借金を抱えている可能性がある。
グアイド氏の計画は「公共財政に持続的な道を保証する財政上のスペースを空ける」ため、対外公的債務の「抜本的な再編」を求めている。
公的債務が専門のリー・ブッフハイト弁護士と米デューク大学のミトゥ・グラティ教授は、国家安全保障上の観点から、ベネズエラが新政府の下で立ち直るまで、同国の資産が米国の債権者から差し押さえられないよう一時的に保護するようトランプ大統領が支援できないか提案している。オバマ前大統領は同様の措置をイラクに対して行った。
●マドゥロ氏は退陣しそうか
少なくとも当面は必ずしもそうとは限らない。軍や治安部隊の上層部が、グアイド氏よりもマドゥロ氏を権力の座にとどめおくことが自分たちにとってより良い結果となると判断すれば、マドゥロ氏は退陣しないだろう。
だが、最近の米国によるPDVSAへの制裁は、マドゥロ政権が食料品やガソリンや医薬品を買ったり、側近や支持者にドルへの特権的アクセスを提供したりするのを困難にさせるだろう。石油は同国の外貨収入の95%を占めている。
●米国が侵攻してきたらどうなるか
トランプ氏は、軍事行動は選択肢の1つだと述べているが、それに伴う国家再建には恐らく興味はないだろう。ベネズエラは、米国が1980年代に比較的容易に侵攻したグレナダやパナマとは違う。産油国であり、同等規模の人口を抱えるイラクの方が比較しやすいかもしれないが、国の面積で言えば、ベネズエラの約半分だ。
介入は比較的容易だが、抜け出すことははるかに難しい。軍事行動は他の中南米諸国からの信用を失い、他地域の同盟諸国を遠ざけ、ひいてはナショナリストによる暴動を招く恐れがある。
資金援助や外交上の支援はさておき、ベネズエラの再建はベネズエラ国民のためにある。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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