焦点:中国がイメージ転換戦略、コロナ感染鈍化逆手に外交攻勢

焦点:中国がイメージ転換戦略、コロナ感染鈍化逆手に外交攻勢
 3月6日、中国は、国内の新型コロナウイルス感染者の増加が鈍化してきたとアピールし、感染者急増に直面する諸外国への支援を通じ、「責任ある大国」としての信頼獲得と、傷ついた対外イメージの回復を図ろうとしているようだ。写真は北京で、3日撮影(2020年 ロイター/Thomas Peter)
[シンガポール/北京 6日 ロイター] - 中国は、国内の新型コロナウイルス感染者の増加が鈍化してきたとアピールし、感染者急増に直面する諸外国への支援を通じ、「責任ある大国」としての信頼獲得と、傷ついた対外イメージの回復を図ろうとしているようだ。
中国の外交官たちは現在、各国に中国が感染拡大を抑え込んだとのメッセージを送り、中国人に対する入国制限を緩和するよう盛んに働き掛けている。同国外務省によると、既に400件以上のメディアの取材に応じ、300件を超える記事につなげたという。
医療機器の寄贈を含めた外交努力は、初期対応のまずさで新型ウイルス拡大を助長したと猛批判を浴びた中国の印象について、海外で好転させようとする取り組みの一環だ。
そうした効果のせいか、最近では世界中で新型ウイルス感染が広がっている一方で、中国政府は武漢市の封鎖といった劇的な措置で感染の抑制に成功した、との賞賛さえ獲得。
また、中国政府は、新型コロナウイルスの発生源を同国とする見方が広がっていることに対してさえ、異議を唱えつつある。外務省報道官は5日、ツイッターに「最初に確認されたからと言って、必ずしも発生源が中国とは限らない。われわれは引き続き発生源を追跡中だ」と投稿した。
ただ、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院のアルフレッド・ウー准教授は「中国は新型ウイルス感染拡大で傷ついたイメージを注意深く作り替えようとしているが、中国政府の対応が後手に回って国際的な危機を招いたという事実がある以上、そんなことをやろうとしてもほとんど不可能だ」と一蹴した。
米コロンビア大学におけるAIDS研究で名高いデービッド・ホー氏は、新型ウイルスが中国で始まったのはほぼ確実で、重症急性呼吸器症候群(SARS)や今回の新型、そして他の動物で発見されたあらゆるコロナウイルスに関する知見を踏まえれば、中国が起源であることに疑いの余地は乏しい、と国際放送で有名な米国営放送「ボイス・オブ・アメリカ」の最近のインタビューで語った。
<パンダ外交を踏襲>
習近平国家主席の下で、国際社会で自己主張を強めてきた中国にとって、新型ウイルス問題の初動の遅れは、習指導部の信頼失墜をもたらしかねない事態だった。ところが、中国国内よりも国外の感染者数がずっと急速に増加している状況となったことで、中国の発するメッセージも内容が変わってきた。
新型ウイルスに関し、米国がパニックを広めていると中国は繰り返し非難するだけでなく、これを人類が直面する課題と位置づけ、イランやイタリア、韓国といった感染の被害が大きい国への援助を申し出ている。
例えば中国はイランに医療チームを派遣するとともに、25万枚のマスクと5000個の検査キットを贈った。それが入った箱には、中世ペルシャの詩人・サアディーが人類の一体性を吟じた一節「アダムの子らは互いに手足のごとく、創造の起源を共有している」が記されていた。
一方、王毅外相は、習近平氏が打ち出した現代版シルクロード経済圏「一帯一路」を引き合いに、新型ウイルス問題は「医療のシルクロード」が必要なことも証明されたと強調している。
中国の政府系研究機関・「グローバル化シンクタンク」(中国与全球化智庫)所長で、国務院のアドバイザーを務めるWang Huiyao氏は「中国は有名な『パンダ外交』と同様に、世界に対して善意と友好の姿勢を見せようとしている」と説明し、この医療支援外交は、特に一帯一路への反発に起因して国際社会に広がった過去数年間のマイナスのイメージの改善も目指していると述べた。
上海市は、韓国の感染の中心地、大邱市に50万枚のマスクを届け、浙江省はイタリアのトリノ市に2600個の防護ゴーグルを寄贈した。
オーストラリアのローウィ-・インスティテュートのナターシャ・カッサム研究員は、他国の政治指導層が新型ウイルス問題で苦戦していることが中国にチャンスを与えていると指摘。先進国だとみなされている諸国を今や、中国が助けることができるという効果的な宣伝に役立っている、との見方を示した。
(Keith Zhai記者、Huizhong Wu記者)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab