コラム:新型コロナ、市場パニックでも金融危機にならない訳

コラム:新型コロナ、市場パニックでも金融危機にならない訳
3月12日、米国株がまたしても10%近く下落し、企業はあらかじめ設定していた融資枠を利用して資金調達に着手しつつある。ニューヨーク証券取引所で11日撮影(2020年 ロイター/Andrew Kelly)
Richard Beales
[ニューヨーク 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米国株がまたしても10%近く下落し、企業はあらかじめ設定していた融資枠を利用して資金調達に着手しつつある。米トランプ大統領や欧州中央銀行(ECB)による政策のしくじりはパニックを誘発。米連邦準備理事会(FRB)が1兆5000億ドル規模の追加レポオペ実施を決めても、流れは止められていない。
だが、新型コロナウイルス感染拡大という健康面の危機が、金融危機を生み出すという根拠は見当たらない。
FRBは、金融調節の実行部隊であるニューヨーク連銀を通じてレポ取引の円滑化を支える。12日には、この取引が「極めて異例の混乱」に陥ったことを受けて支援強化に乗り出した。市場では売買の気配値が拡大し、取引成立が難しくなっている。
11日までの状況に目を向けても、S&P総合500種は新型ウイルス感染症を巡る懸念から、1カ月足らず前に付けた過去最高値からおよそ20%下落。サウジアラビアが今週、市場への原油供給拡大を決めると原油価格が急落し、事態悪化に拍車を掛けた。
航空機大手ボーイングは11日に大型の融資枠から資金を引き出し、他の企業も追随する形で手元資金を拡充した。情勢がさらに悪くなる場合に備えるという─全く理にかなった─動きを見せている。
各種報道を見ると、借り入れ比率の高いヘッジファンドは最も流動性がある資産の売却を迫られており、銀行に対してディーラーとして取引する能力を制限する規制が取りざたされ、あるいは、投資家は一番安全な現金に殺到して他の資産は価値を失いつつある。特に不安定化しているのが高利回り債だが、それは多くの石油・ガス企業の資金調達手段となっているためだ。
こうした動揺に輪をかけるように、トランプ氏は11日、新型ウイルス対策の目玉として大半の欧州諸国からの入国を禁止すると発表した。しかし、米国内でぜひとも必要な肝心の感染抑制措置や即効性のある景気てこ入れについては、さほど重視しないか無視している。
またECBのラガルド総裁は、FRBやイングランド銀行(BOE)と足並みをそろえる形で単純明快な利下げを実施する機会を生かさず、市場の不安を増幅させてしまった。
しかし、足元で資産価格の下落が勢いを増しているのは、新型ウイルス感染症の経済的な悪影響を反映したもので、基調的な金融システム上の問題に起因してはいない。
米国の銀行も2008-09年の世界金融危機以前よりも格段に経営基盤が強くなっている。もしも政策当局者が新型ウイルスをしっかり封じ込めることができるなら、市場における不安の連鎖という病気があたかもパンデミック(世界的大流行)にまで発展する必然性はなくなる。
●背景となるニュース
*FRBの金融調節を実行するニューヨーク連銀は12日、今週中に1兆5000億ドル規模の追加レポオペを実施するとともに、国債買い入れ対象を短期ゾーン以外に拡大すると発表した。
*12日に5000億ドルの3カ月レポオペを実施。13日には1カ月物と3カ月物をそれぞれ5000億ドル行う。
*こうした措置の狙いについてニューヨーク連銀は、新型ウイルスの感染拡大に伴うレポ市場の「極めて異例の混乱に対処するため」と説明した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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