焦点:コロナで再び台頭する保護主義、貿易戦争が世界を分断

焦点:コロナで再び台頭する保護主義、貿易戦争が世界を分断
 6月29日、今年初めの時点で米中の貿易戦争は緊張が緩んでいたが、新型コロナウイルスの大流行で世界的に保護主義の流れが再び強まっている。2018年12月、山東省青島市の港湾で撮影(2020年 ロイター)
Philip Blenkinsop
[ブリュッセル 29日 ロイター] - 今年初めの時点では、米国と中国の貿易紛争は「第1段階」合意で緊張が緩和していた。米政府と欧州連合(EU)、日本政府も補助金を抑制する新しい国際通商ルールで合意。比較的落ち着いたムードが流れていた。
その後、新型コロナウイルス問題が直撃する。スイス拠点の監視グループ、グローバル・トレード・アラートによると、医療機器や医薬品、一部では食品に対する世界貿易で計222件の輸出規制が課された。特に医療機器では平常時の20倍を超えた。
こうした規制は現在は解除されつつある。しかし新型コロナは確実に保護主義を巡る議論を大きくしている。世界的なサプライチェーンがいかに人々から必要不可欠な医療を奪い得るか、食品供給を途絶し得るか、さらには雇用を脅かし得るかが浮き彫りになったからだ。
今やトランプ米大統領は、中国と関係を断ちたいと考えていると表明。EUは中国などからの国家補助を受けた投資を阻むことを計画している。中国は食品輸入で新型コロナウイルス検査を強化すると宣言して見せた。
マルムストロム前欧州委員(通商担当)は6月24日のセミナーで、世界が保護主義に向かい、新型コロナ危機で一時中断していた通商紛争が再燃する懸念すべき傾向が見えると発言。「われわれは通商問題で賢明でいるよう警戒すべきだ」と訴えた。
世界貿易機関(WTO)は23日、今年の世界の財貿易が記録的に落ち込む見通しで、来年も通商面の規制が広がることで回復は見込みにくいと指摘した。
過去2週間では、米国がデジタル課税を巡るEUとの交渉から撤退を表明し、WTOで合意した課税の枠組みを幅広く組み直すことも言明した。
米国はEUとの16年にわたる航空機補助金紛争で圧力を続けるため、オリーブやパン原料やジンといったEU産品への関税の脅しもかけている。
<現実とのギャップ>
ある意味では、政治的な応酬が現実より先走りしているようだ。米中間の貿易は新型コロナで落ち込んだ後、4月に増加している。複数の米政府高官は、中国が第1段階合意に沿って米国の産品の購入を増やすと請け合っている。
中国とEUそれぞれの高官は22日、オンラインで顔を合わせた。ただし、EUは中国に対し、欧州企業の市場参入拡大を認めるとの約束を守るよう要請し、新型コロナ問題や香港を巡る中国の振る舞いを批判した。
これに対し、中国側は新型コロナでの協力深化を提案し、EUに対し輸出規制の緩和を求めた。24日には、中国政府はさらに産業7部門を外国投資家に開放すると発表した。
中国政府とEU当局は米政府とも連絡を維持しており、食品基準やハイテク技術協力では、米EU間の限定的な協議でいくらかの進展があった。
当局筋によると、EUと米国双方の通商高官は3週間ごとに協議を継続している。中国外交トップの揚潔チ・共産党政治局員も17日、ハワイでポンペオ米国務長官と会談した。
<バイデン氏要因>
カナダのシンクタンク、センター・フォー・インターナショナル・ガバナンス・イノベーションのロイントン・メドーラ所長によると、通商問題が先導役となって、経済回復を支援する上で必要な協力と信頼を醸成することができる。国の規模が小さければなおさらだという。
中国も欧州も、米大統領選が近づくにつれて対米関係が不安定化することを覚悟している。ただし、民主党の候補指名が確定したバイデン氏が勝利すれば、ある程度希望が持てるとも考えている。復旦大学・国際問題研究院のZhu Feng氏は「バイデン氏の大統領就任は、米中関係が合理性を取り戻す唯一のチャンスと言える」と話す。
ただ同氏も、米中関係が短期間で劇的に変わることは見込んでいない。米議会では対中強硬姿勢に超党派で支持がある。
欧州側でも米政府と協調を深められるとの楽観論は後退している。欧州議会のラインハルト・ビュティコファー議員(緑の党)によると、バイデン氏が勝ってもクリントン政権やオバマ政権のような「黄金の時代」に戻ることは考えられない。「バイデン氏が欧州に対して柔軟な姿勢を取るとは思えない。通商問題を取り巻く雰囲気は大きく変わっており、それは米政府内だけでなく、米国全体でもそうだ」。ただ、同盟関係をつくるよう、より調整型のアプローチが取られるともみている。
米統計によると、18年の財とサービスの対EU貿易赤字は1090億ドル(約11兆7500億円)に上った。
ベルギーにあるシンクタンク、欧州国際政治経済センター(ECIPE)のディレクター、ホスク・リー・マキヤマ氏は、通商問題を含め欧州との関係を再均衡させることは米国の中核的な国益だと指摘。「米国の現政権と次期政権、あるいは前政権との違いはまさに、お行儀の違いということでしかない」と述べた。

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