焦点:コロナワクチンに接種拒否懸念、開発「急ぎすぎ」に不信感

焦点:コロナワクチンに接種拒否懸念、開発「急ぎすぎ」に不信感
8月6日、新型コロナウイルスのワクチンの一刻も早い実用化を目指す競争が加速する中で、果たして接種しても安全なのかを巡る懸念が高まっている。写真はコロナウイルスワクチンのイメージ。4月撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)
[ブリュッセル/ロンドン 6日 ロイター] - 新型コロナウイルスのワクチンの一刻も早い実用化を目指す競争が加速する中で、果たして接種しても安全なのかを巡る懸念が高まっている。各国政府や製薬会社は、ワクチン開発が人々の不信感で台無しにならないよう万全の対応が必要だとの認識を強めている。
世界中で開発されている新型コロナワクチン候補は200種類を超え、20種類余りは臨床試験段階に入った。通常はワクチンの開発から安全性と効果を証明するまでの期間は10年かそれ以上とされるが、トランプ米大統領は年内にワクチン接種を可能にすると表明した。
<「急ぎすぎ」が不安あおる>
ワクチンの信頼確保に向けた世界的な取り組みである「ワクチン・コンフィデンス・プロジェクト(VCP)」を主導する1人、ハイディ・ラーソン氏はロイターに、新型コロナワクチンの発見において「政治家にとっては速いことが好ましい」が、一般の人々の立場では「急ぎ過ぎは安全であるはずがない」というのが常識的な感覚だと説明した。
各国の規制当局は、通常は順番に行う試験を並行して実施すればより迅速に結果が得られるので、開発スピードによって安全は損なわれないと繰り返している。だが西側諸国をはじめとする多くの地域では、既に新型コロナのパンデミック(世界的大流行)が起きる前から広がっていたワクチン全般に対する不信感を、そうした主張で払しょくすることはできていない。
米国と英国で政府などが一部を出資して立ち上げられた団体「ビジネスパートナーズ・トゥ・CONVINCE」がVCPと共同で、過去3カ月間に19カ国を対象に行った聞き取り調査の暫定結果によると、英米では新型コロナワクチンが利用可能になった場合に接種すると答えた人は全体の約7割にとどまった。同団体のスコット・ラッツェン氏がロイターに明らかにした。これは5月にロイター/イプソスが実施した世論調査結果とほぼ重なる。
ラッツェン氏は「科学と政府への不信感が増大しつつあることが分かる。急速な開発ペースや誇張された政治的な約束、ワクチンに付随するリスクに対するもっともな不安を解消しなければならない」と述べた。
数週間後に詳しい内容が公表されるこの調査では、ワクチンへの信頼度が最も高かったのが中国で、最低はロシアだったことも分かった。
製薬会社や各国政府は、コロナ危機の規模の大きさ自体が、ワクチンを巡る懸念を和らげてくれるのではないかと期待している。
しかし接種をためらったり拒否したりする「ワクチン忌避」は、多くの場合、単純に副作用や業界の倫理水準への懸念から、また時には陰謀論とともに厳然と存在する。世界保健機関(WHO)は昨年1月、この年世界で予想される10大脅威の1つにこのワクチン忌避を挙げていた。
<SNS上でも「忌避」の書き込み>
欧州では、今回のパンデミックのずっと前からワクチンへの懐疑論が根付いていた。それは製薬会社の不適切な行為が報じられていたことや、子どもの頃に受けた予防接種と自閉症の因果関係を示唆する間違った学説の影響もある。
欧州連合(EU)欧州委員会の委託で2018年に行われた調査では、フランスでワクチンは安全とみなしていたのは全体の7割だった。EU平均では82%だが、インフルエンザワクチンに関する信頼度では68%に下がっていた。
VCPは欧州委員会や製薬会社から資金援助を得て、そうした人々の不信感を示す兆候や、その原因を見つけ出し、手遅れになる前に正しい情報を届けることを目指している。
中でもラーソン氏が言及したのは、トランプ政権が「ワープ・スピード」と名付けた新型コロナワクチン開発計画がメディアの見出しを飾っている点だ。感染者の致死性が今後弱まる可能性があるとの考え方よりもむしろ、ワクチン忌避に拍車を掛けかねないという。
またVCPがソーシャルメディアの投稿を分析したところ、6月末までの英国での新型コロナワクチンを巡る書き込みのうち、およそ4割は否定的な内容だった。
ラッツェン氏は、特にロシアと中国でワクチン開発が進んでいると発表されていることも、懐疑ムードを強める要因だとし、その上で「われわれは透明性が与えられず、彼らのデータの正確さや妥当さがどの程度なのか見当がつかない」とも指摘。この地域でのデータの誤りが世界のあちこちでワクチンへの懐疑的な見方を誘発する恐れがあるとも述べた。
<情報発信、慎重さ欠けばリスク>
国境なき医師団(MSF)のケート・エルダー氏は、ワクチン忌避者の間に共通する特徴というものはないので、それぞれの人たちに見合う対策を施すのが情報発信を成功させる鍵になるとの見方を示した。
エルダー氏は「高度な教育を受けている人から科学を信じていない人まで、ワクチン忌避は多岐にわたる」と強調し、政治家はワクチンについてのメッセージを送る際に、もっと慎重になり、成果がなぜ迅速に出てくるのかをよりうまく説明するべきだと訴えた。
ラッツェン氏は「世界のさまざまな場所ごとに、異なる戦略が必要になる。われわれは個別にそうした戦略を策定するべきだと承知している」と話す。
ワクチン忌避の問題が早期に解消されない場合、危険は大きい。
09年の新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)流行時には、ワクチンへの疑念が高まってフランスで接種作業が進まず、摂取率が人口の8%にとどまった。この新型インフルエンザでは世界中でおよそ28万人が死亡したと推定されている。
フランスの科学者グループが今年5月に医学誌ランセットで公表した調査では、ロックダウンを導入した3月半ばに同国で18%だったワクチンを忌避する人の割合が、月末までに26%に上昇した。この調査は、新型インフルエンザの09年と同様のリスクが現在もあることを警告している。「新型コロナワクチンが実用化される際に、不信感は大きな問題になりそうだ」と同グループは結論付けている。
(Francesco Guarascio記者 Josephine Mason記者)

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