コラム:NY原油初のマイナス、実は合理的な根拠あり

コラム:NY原油初のマイナス、実は合理的な根拠あり
4月20日、原油価格が文字通り、底割れした。写真は原油価格のイメージ(2020年 ロイター/Dado Ruvic)
George Hay
[ロンドン 20日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 原油価格が文字通り、底割れした。20日のニューヨーク市場で、米国の原油供給が貯蔵能力の限度に達しようとしていることにトレーダーがパニックを起こしたため、指標の米国産標準油種(WTI)5月渡しが史上初めてマイナスの水準になったのだ。1つの限月の価格が急落した場合、普段なら、市場全体に何か深刻な混乱が広がっているのではなくて、ちょっとした突発の珍事が起きたと解釈される。ただ今回に限ると、その両方が当てはまる。
価格がマイナスになった直接的な原因は、21日に「最期近」の5月渡しが期落ちするというごくありふれたニュースだった。通常は原油先物の持ち高を維持したい投資家が、できるだけ価格差が小さな形で、期落ちする限月を売って、次の期近物(今の場合は6月渡し)を買おうとする。
ところが足元の6月渡しは引き続き1バレル=20ドルで推移しており、5月渡しとの価格差はこれまで見たことないほど開いている。トレーダーがロイターに語ったところでは、新型コロナウイルス感染の大流行に伴って需要が急減する一方、米国の掘削業者が活動を抑制する気配がないため、このペースでいくとオクラホマ州の貯蔵能力が数週間以内に満杯になる見通しだ。世界的に原油の需給が大きく緩み、貯蔵能力の問題もあることから、買い手は現物を受け取ることにあまりに消極的なため、常軌を逸したような安値でしか引き取らなくなる。
楽観的な見方というものを持てるとすれば、他の油価の指標はそこまで価格が急降下しておらず、指標間の動きのばらつきからすると、短期的な投資家がうまく取引できていないだけという仮説も成り立つ。欧州市場の原油取引を代表する北海ブレントの5月渡しは20日も1バレル=25ドルと、下落率が「わずか」9%にとどまった。サウジアラビアとロシアの主導で最近合意された協調減産では、理論的には5月と6月の原油供給を日量約1000万バレル圧縮することになっている。
しかし重要なのは、この減産が始まるのが5月という点だ。約束された減産の大部分が実行されない可能性もあるだろう。テキサス州の規制当局に州内の原油生産制限を求める圧力も目立って高まっていない。つまり米国の産油地域で救いとなる材料は、1つも見当たらない。
新型コロナ大流行が世界の原油需要を最大で日量3000万バレル蒸発させる恐れがある、という基本的な問題はなお解消されていない。それならば貯蔵施設はパンクし、価格は需給が均衡する水準まで下がらなければならない。20日の途方もない価格急落は行き過ぎの様相を呈しているかもしれないが、しっかりとした現実に基づいている。
●背景となるニュース
*20日の米WTI原油先物の期近5月渡しの清算値は306%(55.90ドル)安の1バレル=マイナス37.63ドルだった。オクラホマ州の貯蔵能力が限界に迫っていることが背景。ロイターによると、あと2週間で貯蔵施設は満杯になる。
*4週間前、現物受け渡しの拠点となる同州クッシングの貯蔵水準は容量の50%だったが、米エネルギー省のデータでは足元で69%となっている。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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