コラム:新型コロナの裏で拡大する情報戦、国際関係に新たな緊張

コラム:新型コロナの裏で拡大する情報戦、国際関係に新たな緊張
新型コロナウイルスの感染が拡大するその裏で、偽の情報も急速に広がっている。写真は2013年6月、ポーランドのワルシャワで撮影(2020年 ロイター/Kacper Pempel)
Peter Apps
[ロンドン 16日 ロイター] - 新型コロナウイルスが猛威を振るうイランで5日、革命防衛隊のサラミ新司令官は「生物学的な戦いのさなかにある」と表明した。司令官がイラン学生通信に語ったところによると、新型ウイルスは「米国の生物的(な攻撃の)産物の可能性があり、最初に中国で、それから世界各地に広がった」。
渡航禁止や国家による隔離措置は、誰も想像できなかった速度で世界各地に広がったが、ときに陰険、そしてあからさまな偽の情報も同じように広がった。米国務省は13日、中国の駐米大使を呼び、前日の中国外務省副報道局長の発言に抗議した。副報道局長は、感染症は米軍のチームが湖北省武漢市に、軍事ゲームコンテストの一環として持ち込んだ可能性があると発言していた。
<中国とロシアの動き>
中国側のこうした発言は、ウイルスは中国国外で発生したものだと示唆し、西側諸国それぞれの国内対応を侮辱する戦略の一環にも見える。中国政府は今や、国内の流行はおおむね制御されたと公言しており、海外諸国への支援の提供を極めて公然と、盛大に申し出ている。人民日報系列の環球時報は先週末、一面記事で特に米、英、スウェーデンの新型ウイルス対応を厳しく批判した。中国は今では、海外からの渡航者に隔離措置を新たに課している。
中国の動きはおおむね自国民向けに見えるが、ロシアの場合は国際的な聴衆向けに話を形作ろうとする独自の試みを強めている様子が明らかだ。欧州連合(EU)の虚偽情報監視機関「EUディスインフォ」によると、ロシアとつながりのあるソーシャルメディアはここ数週間、偽情報を盛んに流している。ローマ教皇や映画スターのジャッキー・チェン氏などの人物が感染したといううわさなどだ。
先週末に「ロシア・トゥデイ」のニュースサイトで最も読まれたのは、まもなく実施される米国主導の北大西洋条約機構(NATO)の欧州軍事演習「ディフェンダー・ヨーロッパ2020」が大幅縮小されるという内容で、米軍が感染リスクを敬遠しているとあざ笑うものだった。
<西側諸国に隙>
すでに新型ウイルスへの警告が世界中に鳴り響く中で、国際世論に影響を与えようとするこうした取り組みが実際にどのぐらい効果があるのか疑問がある。すでにインターネット上には大量がかなり出回っているが、こうしたうさん臭い情報はおそらく自然発生したものだ。
それでも、西側勢力の足並みの乱れが隙を与えている。新型ウイルスに対する国際的な対応はばらばらで、この数日、各国政府は国境を閉鎖するか、封鎖措置を取るか、あるいはもう少し緩めの措置にするかについて、おおむね自分たちそれぞれの手で決めてきたように見える。英国など他国より対応が積極的でないと見なされた国では、ソーシャルメディアやニュース報道で猛烈な批判コメントが飛び交った。政府当局者がテレビなどを通じ、対応措置をわかりやすく説明しようとしたにもかかわらずだ。
イタリアの当局者がEUから支援がないと批判すると、中国は先週、マスクや医療機器や医療専門家をイタリアに至急送ると発表した。中国の小売り大手アリババの創業者で富豪の馬雲(ジャック・マー)氏はさらに上手で、米国にマスク100万枚とウイルス検査キット50万個を個人的に寄付すると約束した。
<見たくない現実>
むろん、ここには欧州や米国が直視したくない現実が存在する。少なくとも今のところ、特に中国と韓国は主に検査と封じ込めの強化を通じて国内の流行をなんとか制御したように見える。対照的に欧米は、とりわけ検査実施に苦労しており、イランを除けば世界で最も状況が深刻に見える。
政府当局者も含め、新型ウイルスにより多くの人が死亡しており、こうした苛烈さゆえに、イランによる米国への責任転嫁も驚くには値しない。それよりはっきりしないのは、新型ウイルスがきっかけでイランの対米的な緊張が緩和するのか高まるのか、さらにイラン指導部内の権力闘争がどれほど、イラン内での足並みをそろえるのに影響するかということだ。
イランでは先週、革命防衛隊の高官が新型コロナで死亡した。高官は、イエメンの反政府武装組織フーシ派にサウジアラビアの石油タンカー攻撃をそそのかしたことで称賛された人物だ。イラン国内で新型コロナそのものがかなりの混乱を引き起こしているのは想像に難くない。
しかし、もっと大きな問題は各国政府が今後数週間で、どのぐらい協調し、結束を大きく示せるかだ。EU内ではその兆しが出ている。欧州委員会は先週末、防護用品を増産し、それを域外にも輸出するとの取り組みを発表した。世界の指導者らも電話会議に動く見通しだ。金融危機的な状況があまりの規模になっていることも各国の協調を呼ぶ可能性があり、それは世界の中銀による金融市場の不安沈静化のための協調行動でも明らかになっている。
しかし、そうならなければ逆のことが起きるかもしれない。ドイツのメディアが週末に報じたのは、新型ウイルスのワクチン開発を進めるドイツ企業をトランプ米大統領が米国に誘致しようとし、ワクチンの米国独占を狙っているため、米独両政府がいさかいをしているという内容だった。
こうした情報こそ、西側諸国の敵対者が自分たちの優位を強めるのに用いるものではないか。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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