アングル:岐路に立つ中東欧経済、「低賃金モデル」の終焉

アングル:岐路に立つ中東欧経済、「低賃金モデル」の終焉
 7月25日、ベルリンの壁崩壊以来、安い労働力をテコに経済成長を遂げてきた中東欧経済が今、経済モデルの転換を迫られている。写真は6月、ブラスチスラバで賃上げストライキに参加するフォルクスワーゲンの労働者。横断幕には「我々を辱めるな」とある(2017年 ロイター)
[ブラスチラバ(スロバキア) 25日 ロイター] - ベルリンの壁崩壊以来、安い労働力をテコに経済成長を遂げてきた中東欧経済が今、経済モデルの転換を迫られている。
スロバキアの首都ブラスチラバにある独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の工場では先月、同国の主要自動車工場として初めてとなるストが実施され、実に14%もの賃上げを勝ち取った。
共産主義体制が倒れて以降、何十もの西側メーカーが安い労働力を求めてスロバキア、チェコ、ポーランド、ハンガリーなどの国々に進出した。VWはその一例だ。
25年を経た今、中東欧地域の失業率は過去最低の3─7%まで下がり、労働力は底を突きつつある。この結果、賃金の上昇率は西側諸国を上回っており、ハンガリーに至っては3月に前年同月比で12.8%も上昇した。
ストを主導したVWスロバキアのゾロスラブ・スモリンスキ労組委員長が1992年にこの工場で働き始めた時、月給はユーロに換算して75ユーロだった。それが今、工場で働く1万2300人の平均賃金は月1804ユーロとなっている。
とはいえ、これはドイツ国内のVW工場に比べると半分に満たない。
同委員長は「時代は変わった。われわれは欧州連合(EU)の一員なのだから、徐々に追いついて格差を縮めていかなければならない」と語る。
仏プジョーや韓国の起亜自動車<000270.KS>も今年、スロバキアで賃上げに応じ、独アウディと独メルセデスはハンガリーでストの可能性に直面している。
自動車産業は中東欧への海外投資の大きな割合を占めるため、その動向はとりわけ重要だ。ルネッサンス・キャピタルは、外国企業の新規投資が他の地域に向かう公算は大きいとの見通しを示した。
<トルコや北アフリカへ>
人件費の上昇に対応し、企業はオートメーション化を進めるなど生産性を高める努力を行っているが、長期的にはより安い労働力を求めて他の国々に移転する可能性もある。
VWは、もしも労組との対立で再びコストが増えるようなら、将来はスロバキア以外に投資する可能性を示している。
ルネッサンス・キャピタルは「次に投資拡大の波がやって来た時には、トルコや地中海南部の国々に押し寄せるだろう」と述べ、具体的な行き先としてモロッコ、チュニジア、エジプトに加え、ウクライナやイランを挙げた。
<二級市民>
西側諸国との賃金格差は、中東欧諸国の社会・政治をピリピリさせてきた。これらの国々の市民は、西欧から「二級欧州市民」扱いされていると感じており、その核心にあるのが賃金格差だ。
政治家もそうした不満に着目し、賃上げを呼び掛けている。スロバキアのフィツォ首相はVWのストを支持し、チェコの与党・社会民主党は10月の選挙に向け「安い労働に終止符」と宣言する看板を立てた。
ただ、西欧並みの賃金を達成するには経済モデルの転換が必要になる。バリューチェーンの中でより利ざやの大きい分野に移行することが決定的に重要だ。
チェコ企業の多くは、収益率の高い最終財ではなく低利ざやの部品を製造している。このことが一因で、経済協力開発機構(OECD)のデータによると同国の時間当たりの労働生産額は19.4ユーロと、ドイツの52.7ユーロを大幅に下回っている。
チェコ首相府の分析責任者、Michal Picl氏は「われわれは低コスト経済を基礎とする経済モデルから抜け出し、より付加価値の高い生産に転換しなければならない」と述べた。
(Jan Lopatka記者)

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