コラム:銀行頼みのECB新緩和措置、狙い外れるリスクも
Swaha Pattanaik
[ロンドン 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、ユーロ圏の銀行が彼女の新たな親友となってくれるのを心から願っている。というのも、就任から4カ月弱のラガルド氏が、新型コロナウイルスに絡むリスクがユーロ圏経済に及ぼすダメージに立ち向かう狙いで12日に打ち出したのは、銀行の助太刀を当てにした「ステルス金融緩和」だからだ。
ラガルド氏は主要政策金利をマイナス0.5%に据え置き、多くの投資家に衝撃を与えた。彼らは、米連邦準備理事会(FRB)とイングランド銀行(BOE)が今月実施したような50ベーシスポイント(bp)幅の緊急利下げはさすがに無理としても、少なくとも形だけでも利下げすると期待していた。ところが欧米株が急落する中でラガルド氏が取りまとめたのは、もっと手の込んだ政策措置だった。
具体的に言うと、中銀預金金利のマイナス水準をさらに深掘りして銀行の収益を圧迫する代わりに、銀行にとって調達の際にコストどころか、おつりがくるような資金を供給し、融資を促そうとしているのだ。銀行は既存の長期資金供給オペについて、最低マイナス0.75%で借り入れができる。これは銀行がECBに預金した場合に適用される金利より低い。同オペを通じた借り入れの上限額も、資産規模の半分までに引き上げられた。またECBの金融監督部門は、銀行が一定期間は幾つかの資本要件を達成できなくても問題視しない姿勢を表明。これらの措置に加え、家計と企業がお金を借りたがっているという事実を踏まえれば銀行が融資を渋る口実はほとんどなくなり、急激だが一時的な景気減速が信用収縮につながるリスクを低下させてくれる。
ラガルド氏は、資産購入を暫時1200億ユーロ増額するために自らの裁量余地も得ることができた。だが記者会見で、ユーロ圏における最も安全な国債と他の国債の利回り差を解消するのがECBの政策意図ではないと「失言」したことに、今後悩まされるかもしれない。
実際、イタリアをはじめとする南欧諸国の国債利回りは、ドイツ国債利回りが低下すると、逆に上昇を続け、新型ウイルスがユーロ圏経済に再び亀裂を生じさせている状況が見て取れる。そしてラガルド氏の発言後、そうした流れが加速し、イタリア10年国債利回りの1日の上昇率は、2011年のユーロ圏債務危機以降で最大となった。
銀行としては保有するイタリアなどの国債の損失が膨らむ懸念があれば、ラガルド氏が期待する融資を実行する能力が弱まるか、意欲が薄れることになる。やはり親友というのは、一朝一夕に築ける関係ではない。
●背景となるニュース
*ECBは12日の理事会で政策金利をマイナス0.5%に据え置いたが、新型コロナウイルス感染拡大に直面するユーロ圏経済を支えるための新たな緩和パッケージを発表した。
*具体的には銀行向けの新たな資金供給の枠組みを導入し、資産購入規模を一時的に拡大する。既存の長期資金供給オペの条件も銀行側に有利な方向に修正する。
*ユーロ圏の銀行向けに一部の資本要件の未達を許容し、新型ウイルスで混乱している実体経済に融資を提供できる態勢も整える。該当する要件は、第2の柱のガイダンス(P2G)、資本保全バッファー(CCB)、流動性カバレッジ比率(LCR)だ。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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