焦点:新型ウイルスにECBはどう動く、市場は利下げ織り込み

焦点:新型ウイルスにECBはどう動く、市場は利下げ織り込み
 3月2日、新型コロナウイルス問題が引き起こしたパニックによって景気後退(リセッション)の警報が鳴り響き、市場の関心は、欧州中央銀行(ECB)が景気を支えるために何をするかという点に再び集まっている。写真はECBのラガルド総裁。2月6日、ベルギーのブリュッセルで撮影(2020年 ロイター/Francois Lenoir)
[ロンドン 2日 ロイター] - 新型コロナウイルス問題が引き起こしたパニックによって景気後退(リセッション)の警報が鳴り響き、市場の関心は、欧州中央銀行(ECB)が景気を支えるために何をするかという点に再び集まっている。
ただECBは既にマイナス金利を深掘りし、2兆6000億ユーロ相当の資産買い入れを実施している。今月50ベーシスポイント(bp)の利下げが見込まれている米連邦準備理事会(FRB)に比べ、投資家にプレゼントできる追加緩和策は乏しく、ECB政策担当者も追加緩和に消極的だ。
それでも市場は果敢に4月中の10bp利下げを織り込みつつある。一部の市場関係者からは、政策手段が枯渇したというのは見掛けだけではないかとの声も聞かれる。
ダンスケバンクのシニアECB金利ストラテジスト、ピエト・クリスチャンセン氏は「われわれが危機を通じて得た教訓は、ECBがレフリーとルールメーカー、プレーヤー全ての役割を演じているということだ。つまり彼らの能力と意思を決して軽視してはならない」と指摘した。
以下に市場が想定しているECBの次の一手を示した。いずれも安易に打ち出せる手段ではない。
(1)早期利下げ
2日の短期金融市場は4月の利下げを完全に織り込み、1週間前は10%とみていた3月中の利下げ確率も90%に引き上げた。年末までには2回利下げが実施されると見込んでいる。
もっとも現在の政策金利が過去最低のマイナス0.5%となっている上に、新型ウイルス問題が単に需要を減らしているだけでなく、生産設備を含めたサプライサイドに悪影響を及ぼしていることを踏まえると、追加利下げの効果は乏しいかもしれない。
実際、追加利下げすればECBの政策金利は、緩和の効果よりも弊害が大きくなる「リバーサル・レート」に接近しかねない。一部の専門家はもうリバーサル・レートに達しているとさえ論じている。
とはいえ利下げは一定のシグナル効果を持ち、他の政策手段に比べれば実行しやすい。コメルツ銀行の金利戦略責任者ミヒャエル・レスター氏は「最初の防衛ラインが利下げになるのは誰の目にも明らかだ」と述べた。
(2)協調行動
もしECBが他の主要中銀と協調して行動すれば、利下げのインパクトはずっと大きくなる。
直近で中銀が協調行動にでたのは、東日本大震災が起きた2011年3月で、円急騰を抑えるための為替介入を実施した。
再び具体的な協調に動く兆しはまだ見られないが、日銀は必要な措置を講じると表明し、イングランド銀行(BOE)も海外中銀と協力して経済を守る姿勢を示している。
ラボバンクの金利戦略責任者リチャード・マグワイヤ氏は「利下げ効果の最大化を図りたいなら、他の中銀と足並みをそろえることが『衝撃と畏怖』になる」と話した。
(4)QE拡大
ECBは毎月200億ユーロ規模の資産買い入れ(量的緩和=QE)を拡大することは可能だが、幾つかのハードルがある。保有国債が既にECBの自主ルールに基づく買い入れ上限(1国の発行量の33%)に迫っているという問題は、言うまでもない。
このルール修正にはECB内でも多くの反対意見が存在する。さらに資産買い入れ拡大を正当化できるほど事態が切迫していない可能性もある。例えばリスク資産の社債と安全資産の国債の利回りスプレッドは、今でも過去と比べて比較的小幅にとどまっている。
市場関係者によると、現在180bpで推移するドイツとイタリアの国債利回りスプレッドが300bpまで開いて初めて、ECBが深刻な懸念を抱くという。
(4)TLTRO強化
ECBが大規模緩和の一環として実施している貸し出し条件付き長期資金供給(TLTRO)の条件を甘くするという方法もある。
だが銀行側のTLTRO利用はこれまでのところ想定を下回っている。
ロンバー・オディエの投資ストラテジスト、サルマン・アハメド氏は「このシステムが『閉店』状態で、資金需要がないとすれば、(TLTRO強化の)に何の意味があるのか」と問い掛けた。
(5)政府への働き掛け
ECBのデギンドス副総裁は2日、新型ウイルス問題を巡るいの一番の対策は財政であるべきだと発言した。こうした声はさらに強まる公算が大きい。
ドイツは地方政府支援のため各種税控除や、財政均衡を義務付けている「債務ブレーキ法」の修正を検討中だ。ただ連邦債務拡大を制限する制度は残る。
ドイツ10年国債利回りは先週、週間ベースで12年以降最大の低下幅を記録し、投資家が大型財政刺激策を予想していないことが裏付けられた。

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