コラム:ドラギECB総裁、退任前に残す「新たな緩和余地」

コラム:ドラギECB総裁、退任前に残す「新たな緩和余地」
 6月6日、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁(写真)が打ち出している超金融緩和策は、総裁退任後も続いていきそうだ。フランクフルトで撮影(2019年 ロイター/Ralph Orlowski)
Swaha Pattanaik
[ロンドン 6日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が打ち出している超金融緩和策は、総裁退任後も続いていきそうだ。ドラギ氏が10月に8年の任期を終えるまで、利上げをする機会は結局訪れないだろう。逆に退任を控え、新たな緩和措置を再び引っ張り出そうとしている。
ドラギ氏は6日、ECBが少なくとも来年半ばまで、つまりこれまでの見通しよりも先まで、政策金利を据え置く方針を明らかにした。それも驚きだったが、この段階では政策金利は来年半ばまで上がりも下がりもしないという意味だと投資家は受け止めた。ところがその後、ドラギ氏は、一部の理事会メンバーが追加利下げの可能性を指摘したほか、資産買い入れ再開やフォワードガイダンス再延長の可能性に言及したメンバーもいたと補足したのだ。
結果的に、いったん1.13ドル超まで上昇したユーロ/ドルは、日中高値から0.005ドル余り下がり、ユーロSTOXX銀行株指数も当初の1.5%高から1.8%安に転じた。こうした銀行株の軟化は、ドラギ氏が後任総裁に残していく問題の大きさを浮き彫りにしている。
ECBは、再び緩和に動かざるを得なくなる可能性は十分にある。ドラギ氏はユーロ圏経済に吹き付ける逆風として、地政学的な不確実性と保護貿易主義を何度も挙げた。これらのリスクが顕在化した場合、物価上昇率は下振れし、ECBが目標とする2%弱からさらに遠のくかもしれない。5年先から5年間の平均物価上昇率に関する市場予想は6日に1.25%前後と、過去最低を更新した。
ただマイナス金利の長期化は、ECBが家計や企業へ資金を流し込む主な経路として重視する銀行に痛みをもたらす。ECBが銀行支援に向けてできることは何でもやっているのは間違いない。6日に発表された新型の貸出条件付き長期資金供給オペ(TLTRO3)の条件は、想定範囲内で最も銀行にとって寛大な内容だった。
それでも、マイナス金利によって純利ざやが圧迫され続けている銀行には、わずかな慰めにしかならない。
ドラギ氏は、マイナス金利とガイダンスが銀行収益に打撃を与えているかどうかについて議論があったと述べた。そして現段階では、そうした懸念はないというのが理事会のコンセンサスだった。マイナス金利が銀行に及ぼす問題がいつ、どのように表面化するのかの解明は、次期総裁に委ねられる。
●背景となるニュース
・ECBは6日、中銀預金金利をマイナス0.4%に維持し、主要政策金利は少なくとも来年前半まで据え置くと明らかにした。これまでは現行金利の継続を終える時期を今年末と想定していた。
・新型の貸出条件付き長期資金供給オペ(TLTRO3)の適用金利の最低水準は、中銀預金金利プラス10ベーシスポイント(bp)のマイナス0.3%になると発表された。
・ドラギ総裁は、一部の理事会メンバーが追加利下げの可能性を指摘したほか、資産買い入れ再開やフォワードガイダンス再延長の可能性に言及したメンバーもいたと述べた。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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