焦点:EV充電コスト無料化も、日欧企業が狙うV2G電力供給

[フランクフルト/ロンドン/パリ 21日 ロイター] - 電気自動車(EV)を充電コスト抜きに走行させたいと考えたことはあるだろうか──。多少のギブ・アンド・テイクを気にしないなら、その夢は実現するかもしれない。
少なくとも一部の欧州電力会社と日本の自動車メーカーはそのように考えている。
独エネルギー大手のエーオンとフランス電力公社(EDF)はすでに、EVバッテリーに蓄積された電力を、グリッド(電力網)に売り戻すサービスの開発で日産自動車<7201.T>と協力している。2社は現在、日産の後に続くよう欧州の自動車メーカーに働きかけている。
向こう10年で、数百万台に上るEVが欧州の道路を走ると予想されている。これは、ドライバーにもっと電力を売るチャンスであると同時に、ピーク時の充電増によって電力網が不安定化するリスクもあると電力会社は考えている。
したがってエーオンは、自動車から電力網に放電することで電力需給を調整するいわゆる「V2G(ビークルツーグリッド)」サービスを開発するため、日産と協力している。その中には、エーオンが電気需要のピークと底を予想できるよう充電データの集計とマーケティングを行うためのソフトウエア開発も含まれている。
日産のアイデアは、オフピーク時にEVバッテリーを充電して、電力網に負荷がかかっている時にバッテリーに蓄積した電力を売り戻す準備をしていれば、実質的に無料で充電が可能になるというものだ。
一方、仏EDFはV2G技術開発の米ヌービー社と手を組み、日産と三菱自動車工業<7211.T>のEVが利用できる、欧州で初の商業運転となるV2G充電ネットワークを開発している。
時価総額で欧州最大の電力会社であるイタリアのエネルも日産やヌービーと協力し、ローマとジェノバのほか、デンマークとオランダでもV2Gを試験している。
こうした電力会社にとっての問題は、日産と違い、今後欧州におけるEV増加の恩恵を最大限享受するであろうフランスやドイツの自動車メーカーが、少なくとも現在は協力の意思を示していないことだ。
<仮想発電所>
業界筋2人によると、エーオンとEDFは欧州メーカーに対し、V2Gの話をもちかけているが、彼らは、日本メーカーの規格と比べて充放電に向かないとみられるEV充電技術の開発をより重視している。
独フォルクスワーゲン、独ダイムラー、独BMW、米フォード・モーターの4社による共同出資会社イオニティによれば、欧州全体に高速充電ステーションを設置する同社の初期計画において、V2Gは含まれていない。「われわれの顧客が望んでいるのは、速く充電できることであり、電力を戻すことではない」と同社の広報担当者は語った。
V2Gに対するもう1つの抵抗勢力は、EVの先駆的存在である米テスラだ。同社は家庭用の大型据置蓄電池も販売しているが、V2Gに関してコメントしなかった。
大量のEVバッテリーを仮想発電所として利用することで、電力を電力網に供給するアイデアは今に始まったことではない。だが、そのほとんどはいまだ試験段階にある。EVの数がまだ非常に少ないことがその主な原因だ。
それでも電力業界に対して訴求力があることは明らかだ。
一般的なEVの運転時間は1日2.4時間に満たない。残りの時間は、太陽光発電と風力発電による電力供給の隙間を埋める必要性がますます高まっている電力網の受給バランスを調整するために、EVバッテリーを使うことができる。
とりわけそれは、原子力発電所と石炭火力発電所を段階的に停止しているドイツに当てはまる。一方、フランスと日本は、安定した電力供給を確保するため、原子力発電を維持している。
伊エネルでeモビリティーのグローバル責任者を務めるアルベルト・ピグリア氏は、EV市場が飛躍的な成長を遂げるにつれ、関連するエネルギーサービスも爆発的に成長する転機が訪れると指摘。「われわれはそれに備えている」と同氏は語った。
<充電規格戦争>
欧州における本格的なV2G普及にとって、大きな障害の1つは、現時点では日本で開発されたEV充電規格「CHAdeMO(チャデモ)」でしかうまく機能しないという点だ。
イオニティは「コンバインド・チャージング・システム(CCS)」が充電規格として確立されることに注力している。だが、現在設定されているCCS式充電ステーションとEVバッテリーとの間の通信プロトコルでは、電力を充放電するための双方向情報フローにおいて、急速な変化をもたらすことは不可能だと専門家は指摘する。
むしろCCSは、EV所有者ができるだけ迅速に充電できるよう開発されている。素早く給油できるガソリン車の便利さをあきらめきれないドライバーにEVを受け入れてもらうためだ。
「われわれにはV2Gの充電規格が欠けている」と、ヌービー社のグレゴリー・ポイラスン最高経営責任者(CEO)は語る。
同社がEDFと英仏で開発している4000カ所のV2G充電ステーションネットワークは、現時点において、チャデモの規格で走る日産の電気商用車「e-NV200」と三菱自のアウトランダーのみが使用可能だ。
それ故、ヌービーは、CCS規格にV2Gとの互換性をもたせることについて、フランスなどの自動車メーカーと協議している。
世界最大のEV市場を抱える中国も、V2Gを視野に入れている。中国独自のGB/T規格はV2Gに適さないが、中国電力企業連合会(CEC)は昨年、日本のCHAdeMO(チャデモ)協議会と、急速な双方向の送電を可能とする急速充電器の共同開発を行うことで合意した。
だが、EVの世界的なインフラ規格がまだ確立されていない現在、ドイツの自動車メーカーは、これまで投資してきた技術をあきらめきれないだけでなく、V2Gによって実質的に自社の自動車部品に対する過度なコントロールを電力会社に渡さなければならなくなることも快く思っていない。
<ゲームチェンジャーか>
これまでのところ、あまり進展は見られないが、それでもエーオンはCCS規格がV2Gに組み込まれることを期待している。
「われわれがチャデモ規格に基づいて開発している集計・マーケティング技術は、CCS規格にも適用できるだろう」とエーオンの担当者であるヨハネス・ベルハーン氏は言う。
英電力業界の「ビッグ6」体制に挑むOVOエナジーも、昨年に日産と契約し、V2G充電器を発売。CCS規格も同製品の市場として視野に入れている。
「日産と非常に緊密なパートナー関係にあるが、今後はCCS規格を使用する他の自動車メーカーとも協力していく」とOVOでEVを担当するトム・パケナム氏は述べた。
V2G推進派にとって問題の1つは、何度も充放電を繰り返すことは最も速くバッテリーの寿命を縮める方法だと広く思われていることだ。バッテリーはEV部品の中で最も高価で、通常はコスト全体の3分の1程度を占める。
V2Gは経済的に理にかなっており、日常生活の妨げにならないと消費者を納得させることが不可欠だと専門家は指摘する。
しかし日産は、消費者が実質的に無料で充電できるようなサービスが提供されれば、「ゲームのルールが変わる」と確信している。
ホンダ<7267.T>も今年欧州で自社初のEVを販売する際、V2G機能を搭載する計画だ。
ヌービーのポイラスンCEOによれば、V2Gにより、バッテリーを損なうことなくEVの維持費を約25%減らすことが可能であり、供給が安定しない再生可能エネルギーの割合が大きい国々では電力網への放電から得られる収入が大きくなるという。
(Christoph Steitz記者、Susanna Twidale記者、Geert De Clercq記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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