焦点:フェイスブックの野望脅かすVR著作権侵害訴訟

焦点:フェイスブックの野望脅かすVR著作権侵害訴訟
 2月27日、2016年現在、VRの市場規模は比較的小さく、主にゲームに限られているが、フェイスブックのザッカーバーグ氏は、この技術がソーシャルメディアや娯楽、医療に改革を巻き起こし、「数十億人の人々にとって日常の一部になる」未来を描いている。写真は同社のロゴ。パリで1月撮影(2017年 ロイター/Philippe Wojazer)
[27日 ロイター] - 米フェイスブックの仮想現実(VR)事業への野望が脅かされようとしている。著作権侵害を巡る裁判で、コンピューターコードの使用差し止めを命じられる恐れが出てきたからだ。
米ゲーム開発会社ゼニマックス・メディアは23日、テキサス州ダラスの連邦地裁に対し、フェイスブック傘下のVR機器メーカー、オキュラスによるコードの使用・提供の差し止めを請求した。
このコードは、オキュラスが自社のVRヘッドセット「リフト」向けにゲームを製作する企業に提供しているソフト開発キットの一部だ。
判決が下されるのは数か月後とみられるが、知的財産権専門の弁護士らによると、ゼニマックスの請求が認められる可能性が高い。そうなればフェイスブックは巨額の和解金を支払うか、業界での地位が揺るがされるリスクを冒して闘うかという、究極の選択を迫られる。
今のところ、フェイスブックは闘う構えだ。ダラスの連邦陪審は2月1日、オスキュラスとその共同創業者パーマー・ラッキー、ブレンダン・イライブ両氏が著作権を侵害したとして5億ドルをゼニマックスに支払うよう命じているが、オスキュラスの広報テラ・ランドール氏は23日、控訴の方針を表明した。
ゲーム市場調査会社スーパーデータのアナリスト、ステファニー・ラマス氏は、オスキュラスがコード使用の差し止めを命じられた場合、「大きなつまづきの石になる」と指摘。VR事業におけるライバル会社、宏達国際電子(HTC)<2498.TW>、ソニー<6758.T>、グーグルの親会社アルファベットなどに対し、「先発組になる重要な機会」を与えてしまうと予想した。
差し止め命令によってリフト自体の販売が禁止されるわけではない。しかしラマス氏によると、HTCの「Vive」やソニーの「プレイステーションVR」に比べて提供できるゲームの数が抑えられそうだ。
2016年現在、VRの市場規模はハードウエアとソフトウエア合わせて27億ドルと比較的小さく、主にゲームに限られている。しかしフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏は、この技術がソーシャルメディアや娯楽、医療に改革を巻き起こし、「数十億人の人々にとって日常の一部になる」未来を描いている。
スーパーデータの推計では、VR市場は2020年までに370億ドル規模に達する見通し。投資会社キャンター・フィッツジェラルドは昨年のリポートで、4年後にはVRがフェイスブックの売上高の1割を占めるようになると予想した。
ゼニマックスの訴訟は、同社の従業員だった著名ゲーム開発者ジョン・カーマック氏とラッキー氏が2012年に交わしたやり取りを巡るもの。ラッキー氏はこのやりとりを非公開とする契約をゼニマックスと結んでいた。カーマック氏は2013年、最高技術責任者としてオキュラスに移籍した。
陪審は、オキュラスが商業上の秘密を盗んではいないが、著作権を侵害した上、非公開契約も破ったと判断した。
知的財産権を専門とする弁護士らによると、裁判ではゼニマックスが被害を受け続けているか否かや、5億ドルが賠償として十分かといった点が争われそうだ。
ブラウン・ラドニックの弁護士エドワード・ノートン氏は、ゼニマックスの許可を得ぬまま技術が使われ続けているなどとして、同社が勝訴する可能性が高いと見ている。
ニューヨークの弁護士ミッチェル・シェロウィツ氏は、非公開契約に違反した場合にはゼニマックスに差し止め命令請求の権利があることが、契約に明記されていると指摘する。
一方、フェイスブック側はリフトがゼニマックスの製品と直接競合していないため被害を受けていないと反論し、差し止め請求を棄却させられる可能性が高い、と指摘する弁護士もいる。
ノートン氏によると、仮にフェイスブック側が差し止め請求を巡る裁判に勝訴した場合には情勢が一変する。同社は陪審評決への控訴でも勝算が高いと自信を深める可能性がある。また潤沢な手持ち資金を盾にゼニックスを消耗戦へと追い詰め、有利な条件で和解に持ち込もうとするかもしれない。
「フェイスブックには元手がたっぷりある。それゆえに敵を訴訟疲れさせることができる」とノートン氏は語った。
(Jan Wolfe記者)

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