焦点:東芝メモリは正念場、サムスンの脅威

焦点:東芝メモリは正念場、サムスンの脅威
 9月28日、東芝の半導体事業の売却先に「日米韓連合」が決まった。2月撮影(2017年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 28日 ロイター] - 東芝<6502.T>の半導体事業の売却先に「日米韓連合」が決まった。東芝は債務超過回避に向け大きな節目を通過したが、売却される「東芝メモリ(TMC)」にとって正念場はこれからだ。シェアトップの韓国サムスン電子<005930.KS>との激しい競争に敗れれば、生き残りは難しくなる。
連合に参加した韓国SKハイニックス<000660.KS>との協力や係争中の米ウエスタンデジタル(WD)との和解が、鍵を握りそうだ。
<経産省、日本資本へのこだわり>
フラッシュメモリーは21世紀に入り需要が急増した半導体製品だ。従来のデジタルカメラ、パソコン、スマートフォンといった「端末」の記録用にとどまらず、近年ではデータセンターに設置されるサーバー用としてハードディスクドライブからの置き換えが始まるなど、ICT(情報通信技術)社会のインフラを支えるデバイスとしての性格を強めている。そのパイオニア的な存在のTMCについては、「日本の宝」(日米韓連合の関係者)との声も聞かれる。
この売却交渉に強く介入してきたのが経済産業省だ。同省は、TMCが「日本資本」であることに強くこだわり、そのことが今回の交渉を困難にした要因となった。
今回の売却交渉に関与した関係者は「経産省は、東芝メモリが外資の手に渡ることは、何としても避けたかった。中国勢も米国勢もだ」と断言する。結果的に、今回の入札に参加し金額面で良い条件を提示した米ブロードコムや台湾の鴻海精密工業<2317.TW>は、買収候補から弾かれていった。
今回の買収資金約2兆円のうち、日本勢による資金拠出額は東芝自身の再投資3505億円と、半導体製造部材を手掛けるHOYA<7741.T>の270億円を足した3775億円と全体の18.8%にとどまるが、議決権は同2社で過半を超える資本構成だ。
韓国半導体大手SKハイニックス、アップルやデル[DI.UL]など、今回の買収連合に加わった米有力IT企業も、融資や優先株引き受けを通じた資金拠出とすることで議決権は持たない。
当初は、日米韓連合の中核メンバーに名を連ねた産業革新機構と日本政策投資銀の政府系2社は、WDが国際仲裁裁判所にTMCの売却差し止めを申し立てた係争が解決されれば、アップルなどに代わって革新機構と政投銀があらためて出資する方向になっている。
TMCをあくまで日本資本にとどめようという意思が、経産省の影響下にある革新機構関係者からも漏れてくる。2024年までの時限組織である革新機構は、今回の出資金を将来、第三者に売却しなければいけない。同機構関係者は今回の出資分について「一番よいのは将来、東芝に買い取ってもらうこと」と話す。
<複合経営、半導体に功罪>
「技術ナショナリズム」を押し出す経産省の姿勢に対し、ある東芝幹部は「メモリー事業がどこの国の資本になるといったことは、われわれには関係のないこと」と冷めた反応を示した。
半導体部門の関係者にとって、医療機器事業やメモリーといった優良企業を相次いで手放さざるを得ない東芝本体は、フラッシュメモリー最大手の韓国サムスン電子などとの巨額の設備投資競争の資金を確保する上で、頼りにできる「親」の役割を期待しようもない。
東芝で14年間、NANDフラッシュメモリーの回路設計のエンジニアとして勤務した経験を持つ、竹内健・中央大学理工学部教授は今月、ロイターの取材に応じた。
1993年に入社し、フラッシュメモリーが本格的に普及する以前の時代を知る竹内教授は「赤字が続いていたフラッシュの事業を継続できたのは、東芝だったから。そうした(複合経営の)メリットはあった」と語る。
2000年代に入って大手電機各社が半導体から手を引き、日の丸半導体の退潮が顕著になっても、東芝はメモリーに注力し世界市場で健闘し、同社の経営の屋台骨を支えた。
とはいえ、電力向け機器など重電、インフラ関連を主流とみなす傾向が続いた同社では、収益貢献に見合った半導体部門幹部の処遇が実現せず、半導体技術者出身の社長登場は、2015年7月に不正会計問題の発覚で「敗戦処理」に追われた室町正志前社長までなかった。
竹内教授は当時を振り返り「1つの会社という価値観は感じなかった」と指摘する。
<未知数の日米韓連合による支援>
業界関係者によると、東芝のメモリー部隊は以前から本体からの独立志向が強かったという。半導体事業で勝ち残るには「技術、資金、リーダーシップの3要素が不可欠」(今回の買収交渉に関与した関係者)とされるが、この点で新たなスポンサーになる日米韓連合がどの程度、支援できるのかは不透明だ。
日米韓連合の顔ぶれのうち3要素を期待できそうなのは、メモリー事業を手掛けるSKハイニックスだけだ。
ただ、来年3月末までに売却を完了させたい東芝の事情に配慮して、各国独占禁止法の審査で問題視されるSKハイニックスによる議決権は今後10年間、15%超保有することができない取り決めとするなど、経営関与を極力薄める内容になっている。
そのことが逆に、投資資金の確保という点で不安な面を残すかたちになっている。
東芝本体にとっては、来年3月末までに2兆円の売却資金を確保すれば一件落着。しかし、TMCにとっては新体制発足後、早々に正念場が来るとの見方が業界関係者から出ている。タイミングを見計らって「サムスンが必ず価格競争を仕掛けてくる」(業界関係者)とみられているからだ。
<WDとの和解が必須か>
フラッシュメモリーが「チップ」からシステム化した「ストレージ」へ変化するにつれ、メモリービジネスの実態も変容している。
具体的には、メモリー単体ではなく、低消費電力化やエラー訂正などの処理を制御する「コントローラー」がより重要になっていくと専門家は指摘する。
調査会社IHSマークイット・アナリストの南川明氏は「NANDフラッシュメモリー単体だけでは厳しく、コントローラーが必要になる。この分野で優れているのはサムスンとウエスタンデジタル。東芝もSKハイニックスもあまり強くない」と指摘する。
竹内教授は、SKハイニックスの強みである低コストでの製造ノウハウが、東芝に寄与すると指摘する。
また、三重県四日市市の工場で東芝と協業、現在はWDの傘下にあるサンディスクと東芝との関係は、もはや切り離しようがないとの見方を示す。
サンディスクと東芝は、メモリーの開発・設計で協力しており「設計図で、ここはあなた、ここはわたしと切り分けできない」(竹内教授)ほど深化しているという。
同教授は「サムスンに対抗するには、いずれ東芝、SKハイニックス、WDが一緒になることが、戦略的に正しいのではないか」と話している。

浜田健太郎 取材協力:山崎牧子 編集:田巻一彦

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