コラム:米仏「チーズ戦争」、デジタル課税改革の前途にも暗雲

コラム:米仏「チーズ戦争」、デジタル課税改革の前途にも暗雲
12月3日、ブルーチーズの代表格とされるロックフォールの生産者は、来年起こりそうな米国とフランスの「チーズ戦争」を含めた両国の貿易摩擦の多くの犠牲者の1つにすぎない。写真はロンドンで会談するトランプ米大統領(右)とマクロン仏大統領。代表撮影(2019年 ロイター)
Liam Proud
[ロンドン 3日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ブルーチーズの代表格とされるロックフォールの生産者は、来年起こりそうな米国とフランスの「チーズ戦争」を含めた両国の貿易摩擦の多くの犠牲者の1つにすぎない。対立がもたらす災厄は収まる気配は見えず、さらなる経済的被害が生じる可能性があり、それが大手IT企業に対する各国の課税制度を世界的に見直す動きの足を引っ張るのは必至だろう。
米通商代表部(USTR)は2日、フランスのシャンパンや、ロックフォールほか約20種類のチーズなど24億ドル相当(訂正)に100%の報復関税を課す可能性があると表明した。トランプ大統領が不満を向けているのは、フランスのマクロン大統領が7月に導入したデジタルサービス税だ。フランス国内で生じた売上高に3%の税率を適用する制度について、米企業だけを不当に狙い撃ちしているとトランプ氏はみている。
確かにトランプ氏の言い分にも一理はある。デジタルサービス税は「デジタルインターフェース」と「ターゲット広告」によって生み出された売上高が対象で、マクロン氏は年間5億ユーロの税収を期待している。だからグーグルの親会社アルファベットやフェイスブックをはじめとする米大手IT企業が、その大部分を負担することになる。フランス財務省は、米国以外の企業も課税対象になると主張はできるが、ルメール経済・財務相がデジタルサービス税は、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンのいわゆる「GAFA」への課税だと繰り返し発言している事実からすると、説得力は薄れてしまう。
米仏両国はどちらも互いに引き下がりそうにはない。トランプ氏は、表面上同盟関係にある相手にも平気で懲罰的な関税を発動してきた「実績」があり、まさに昨年、欧州連合(EU)向けに鉄鋼・アルミニウム関税を課した。USTRがフランスのデジタルサービス税を公式に差別的と認定している以上、トランプ氏が何らかの措置を講じない方がおかしいだろう。同様に、マクロン氏とルメール氏は、大手IT企業をたたくことで政治的な得点を稼いでいる。2人とも、フランス国内で評判が悪いトランプ氏の脅しに屈したとみられるような行動は絶対に取れない。
こうした状況は、デジタル時代に向けて法人課税ルールを世界全体で見直そうという、経済協力開発機構(OECD)が主導している野心的な取り組みの前途に暗雲をもたらしている。OECDのパスカル・サンタマン租税政策・税務行政センター局長はこれまで苦労を重ねて、フランスと米国を同じ立場にとどめられるような方向で議論を進めてきた。おおまかに言えば、現在アイルランドなどの租税回避地に流出しているIT事業の利益の一部に対して主要国の課税権限を強めるという計画だ。だが米国とフランスが貿易面で対立を抱えながら、一方で友好的に新たな課税ルールの詳細を打ち出すとは想像しがたい。つまりチーズ戦争の最大の犠牲者は、賢明な課税ルールということになるだろう。
*第2段落と背景となるニュースの「240億ドル」を「24億ドル」に訂正しました
●背景となるニュース
*米通商代表部(USTR)は2日、フランスからのシャンパン、ハンドバッグ、チーズといった輸入品24億ドル相当(訂正)に最大100%の報復関税を課す可能性があると表明した。
*USTRは、フランスが新たに導入したデジタルサービス税は米企業を差別的に扱っており、広く普及している国際課税ルールと矛盾するとともに、グーグル親会社アルファベットやフェイスブック、アマゾンなどの米企業に異例なほど大きな負担を強いると結論づけた。
*フランスのマクロン大統領は7月、国内で一定のデジタルサービスを提供して生まれる売上高に3%の税率を適用する法案に署名した。課税は今年1月1日にさかのぼって適用される。
*フランスのルメール経済・財務相と、ムニューシン米財務長官はデジタル分野の国際課税ルール策定の一環として話し合いを続けている。今年8月には、フランスのデジタルサービス税と、経済協力開発機構(OECD)を通じて新たにまとめられる課税制度の差額分を、フランス政府が米企業に還付するという妥協案が成立した。ただトランプ大統領はこの案に対する正式な支持を表明していない。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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