焦点:FRB資産圧縮、見え隠れする「腫れ物に触る」慎重さ

焦点:FRB、「腫れ物に触る」ような資産圧縮
 4月11日、米連邦準備理事会(FRB)は、3月2週から3週連続で米国債をネットで買い増した。その結果、月間償還目標300億ドルを大幅に下回り、資産圧縮はあたかも「腫れ物に触る」様な慎重さとなっている。写真はワシントンで3月撮影(2019年 ロイター/Leah Millis)
森佳子
[東京 12日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は、3月2週から3週連続で米国債をネットで買い増した。その結果、月間償還目標300億ドルを大幅に下回り、資産圧縮はあたかも「腫れ物に触る」様な慎重さとなっている。
さらにクラリダFRB副議長は、非伝統的政策への復帰の可能性にも言及した。背景には予想を超えた景気下振れリスクへの警戒感がありそうで、FRBのスタンス次第で金融市場にも影響が出てきそうだ。
3月19―20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、FRBは現行、月間300億ドルとしている米財務省証券(米国債)の償還上限について、5月から月間150億ドルに引き下げ、保有証券の圧縮を9月末で終了するとした。
しかし、実際のデータを見ると、FRBが市場の顔色をうかがいつつ、膨張したバランスシート(B/S)を慎重に巻き戻していることが分かる。
FRBは、3月2週から3週連続で米国債をネットで買い増した。この結果、3月中の米国債償還額は65.57億ドルと、目標額(300億ドル)のたった2割にとどまった。4月に入って償還額は反動増となっているが、3、4月の月平均は200億ドル台となりそうだ。
前回、FRBが米国債の保有残高をネットで積み増したのは、昨年12月後半の株価下落時。3月もダウ<.DJI>が不安定な値動きをみせ、FRBが株価に配慮して償還ペースを調整した可能性が高いと市場のFEDウオッチャーはみている。
1月分のFOMC議事要旨では、FRBによる保有証券の圧縮が、2018年末に流動性が低下した金融市場において、株などのリスク資産の価格下落に顕著な影響を及ぼしたとする投資家らの見解を紹介していた。
10日に公表された3月FOMCの議事要旨では「9月末に保有証券の圧縮を終了することで、証券の保有方針を巡る不透明性が軽減される。また、これは準備預金が潤沢にある体制(a regime of ample reserves)の中で金融政策を運営するという1月のFOMCの決定と整合的だ」とした。
FRBがここへきて金融政策の正常化に逆行するのは、市場の機嫌を損ねないためだけではなさそうだ。
FRBのクラリダ副議長は11日、「今年の成長率が昨年の堅調なペースからいくらか減速することを最近の経済指標は示している」と述べた。
クラリダ氏は3月28日、経済が予想外の困難に直面した場合、FRBは非伝統的な金融政策を再度導入する用意があるとも述べている。
クラリダ氏は標準的な金融政策で、経済のマイナスの衝撃に十分に対応できなかった場合、「これまでに導入した政策ツールがあり、必要ならFRBはこうした政策措置を当然、利用する」と述べた。
FRBのB/Sは10日時点で3.94兆ドルと、年初1月3日の4.06兆ドルから緩やかに減少している。
このペースでいくと、FRBのB/S正常化の着地点は3兆ドル台後半となる見込み。パウエルFRB議長が2017年11月28日の議会指名公聴会で、金融政策の正常化の着地点として示した2.5―3兆ドルのB/S規模を大幅に上回る可能性が高い。
3月議事要旨では、数人の委員が9月末以降も、より長い期間にわたって準備預金の減少を許容すべきと主張していたことが判明した。
これによって金融機関がどの程度の準備預金を必要としているか、より正確に把握することができる上、FOMCが金融政策を効率的に運用するために必要以上の証券を保有しないという方針と一貫性が保たれると指摘した。
しかし、こうした主張はFOMC全体としては採用されなかった。
3月のFOMCでは、FRBが保有する米国債の構成年限についても議論され、今後の会合でも議論を継続するとした。
複数の地区連銀総裁は、保有米国債の年限を短期化して、必要となった場合に再び景気刺激措置(ツイストオペ)として使えるようにしたいとの考えを示している。

編集:田巻一彦

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab