焦点:金融庁、収益悪化の地銀へ「伝家の宝刀」 統合へ狭まる包囲網

焦点:金融庁、収益悪化の地銀へ「伝家の宝刀」 統合へ狭まる包囲網
 4月3日、金融庁は地域金融機関に財務健全性の確保を求める「早期警戒制度」の改正案を公表した。収益悪化が続く地方銀行には、経営陣の交代や業務改善命令も視野に入れる。2014年8月撮影(2019年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 3日 ロイター] - 金融庁は3日、地域金融機関に財務健全性の確保を求める「早期警戒制度」の改正案を公表した。収益悪化が続く地方銀行には、経営陣の交代や業務改善命令も視野に入れる。同日、政府の未来投資会議は地銀の統合を円滑にするための特例措置を検討。収益環境が悪化し、収益の改善のために地銀に統合を促す制度作りが着々と進む中、一部の地銀はビジネスモデルの立て直しに向け動いている。
<将来予測で地銀を監視>
早期警戒制度の見直しの主眼は、金融庁の監督の柱に地銀収益の将来予測を据える点だ。自己資本比率、財務指標、大口与信の集中状況、流動性状況など「過去の一時点」に着目した従来の仕組みを改め、金融庁が作成した市場変動などのリスクシナリオをもとに、将来的に所要の最低自己資本比率4%を割り込むリスクが高いかどうかを見極める。
欧米などがすでに実施しているストレステストに近い手法を採用し、地銀が抱えるリスクをあぶりだす。
これまで金融庁は、地銀に持続的なビジネスモデルの構築を求め、経営陣との対話を重ねてきた。しかし「いまだに『自分の在任期間中に何もなければいい』という甘い考えの経営トップがいる」(金融庁幹部)と、地銀の現状認識に対する金融庁のいらだちは強まっていた。
金融庁幹部が懸念しているのは、中央組織による救済スキームがある信用金庫や信用組合ではなく、規模が小さい銀行が多い「第二地方銀行」39行の今後だ。
地銀を取り巻く収益環境が急速に変化するなか、金融庁は警戒感を募らせている。金融庁は、収益悪化が常態化し、経営トップの意識や取り組み姿勢が不十分な地銀には経営陣の刷新を求める方針。業務改善を目的に他の銀行との経営統合につながる可能性もある。
<狭まる統合への包囲網>
地銀に統合を促す制度作りは、多面的で進んでいる。政府は3日の未来投資会議で、地銀や路線バス会社の経営統合の促進策を議論した。
ふくおかフィナンシャルグループ<8354.T>と十八銀行の経営統合の承認プロセスが長期化したことを踏まえ、政府は統合で生まれる新銀行の県内シェアが高い場合でも、早期の経営立て直しのために必要な場合は、例外的に統合を認める方針。
ある政府関係者は「苦境に陥った地銀を統合に向かわせるのが真の狙い」と話す。その上で「『未来』を看板とする会議で、後ろ向きなテーマを扱うのは皮肉だが、今の日本に必要な対策だ」と指摘する。
<脱・市場部門、脱・伝統>
地方銀行は、業務の立て直しに動き始めている。あおぞら銀行<8304.T>は3月、19年3月期の業績予想を下方修正した。当期純利益を430億円(前期比0.1%減)から360億円(同16.4%減)に引き下げた。
あおぞら銀行が提供する「デリバティブ内蔵型預金」の販売が振るわなかったことが下方修正の一因で、同行の顧客である地方銀行が、金融商品への投資に慎重になったとみられる。
ある地銀の幹部は「市場部門に依存するのをやめ、融資など本業での黒字復帰を第一目標にする」と話す。別の地銀は「伝統的な銀行のビジネスモデルとの決別」を掲げ、異業種に職員を積極的に派遣。新たなビジネスモデルを模索している。
<「廃業はありえない」>
早期警戒制度の見直し案について、金融庁の幹部は、いよいよという場合に限って発動する「伝家の宝刀」と指摘する。金融庁は、収益が悪化した地銀に業務改善命令を乱発することはせず、経営陣の取り組みや営業基盤である地域の実状などを総合的に見たうえで、行政処分の可否や内容を判断する方針だ。
しかし、地銀は業績悪化が続いている。実質業務純益は減少傾向が継続し、19年3月期中間期は与信費用が増加に転じ、収益の足を引っ張った。
「預金を預っている以上、地銀の円滑な廃業はありえない。苦しくなれば、救済合併しかない」と、ある金融庁幹部は話している。

和田崇彦 編集:田巻一彦

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