焦点:独メルケル首相、政権維持と引き換えに財務相失う可能性

焦点:独メルケル首相、政権維持と引き換えに財務相失う可能性
 7月21日、ドイツのメルケル首相(写真左)は9月24日の総選挙後、ユーロ圏の経済危機対応における功労者であるショイブレ氏(右)を、政権維持のために犠牲にしなければならないかもしれない。2016年 12月、エッセンでの党大会で撮影(2017年 ロイター/Kai Pfaffenbach)
[ザスバッハバルデン(ドイツ) 21日 ロイター] - ドイツのショイブレ財務相はこれまで十数回の選挙で当選を続け、メルケル首相がユーロ圏の経済危機を乗り切る上で主導的な役割を果たしてきた功労者だ。しかしメルケル氏は9月24日の総選挙後に、政権維持のためにショイブレ氏を犠牲にしなければならないかもしれない。
メルケル氏が率いる与党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は選挙で勝利する公算が大きい。ただし単独過半数には届かない場合、社会民主党(SPD)との大連立維持を迫られるだろう。
そのSPD指導部は、大連立を続ける条件としてショイブレ氏の辞任と財務相ポストの提供を挙げている。ショイブレ氏は、多くのドイツ国民が望む財政規律と金融安定の権化のような存在だが、SPDから見れば行き過ぎだという。
メルケル氏に反対の立場の人々からすると、ドイツと他の欧州連合(EU)諸国が財政ルールを順守するべきだと強調するショイブレ氏の姿勢は、フランスのマクロン大統領が経済再生のために動ける余地を閉ざす危険がある。
税収が豊かなドイツに比べ、フランスの財政は厳しい。だからといってフランスに財政規律を強要すれば、マクロン氏が成長テコ入れに動けずに政治的に追い詰められ、欧州統合推進がとん挫するか、極右のマリーヌ・ルペン氏が政権を獲得してしまうというリスクを、SPDは懸念している。
現大連立政権で外相を務めるSPDのジグマル・ガブリエル氏は、フランスの多少の財政赤字を許容するのと、5年後にルペン氏が大統領の座に就くのと、どちらがドイツにとって高い代償を伴うシナリオなのかとメルケル氏に問い詰めたことを明らかにした。
その上でガブリエル氏は「われわれドイツ人は態度を改める必要がある」と語った。
一方、ショイブレ氏が財政規律を緩めるような姿勢に変わるのは、多くのドイツ国民にとって好意的に受け入れられそうもない。実際、ショイブレ氏の地元バーデン・ビュルテンベルク州は勤勉と貯蓄を生活信条とする土地柄でもある。
<財務相ポストに虎視眈々>
1990年のドイツ再統一直後の選挙戦中に銃撃されたショイブレ氏は、その後車いす生活を余儀なくされたものの、政治家としての活動をやめなかった。今も政界に留まる意向を示している。
今年5月には南アフリカのダーバンに飛んで世界経済フォーラムに出席し、わずか12時間の滞在中に数々の討論会に出たり、学生にEUの仕組みを講義するなどした。こうした精力的な活動ぶりが、有権者や他の政治家の尊敬を集めている理由だ。
それでもメルケル氏は、これほど評価の高いショイブレ氏を財務相に留任させられない可能性がある。選挙後の連立相手候補と目されるSPDと自由民主党(FDP)がいずれも財務相ポストを獲得したいという考えを明らかにしているためだ。
ガブリエル氏は記者団に「SPDは4年前の連立協議で犯した誤りを繰り返さない」と述べた。
2013年当時、SPDは最低賃金制度の導入などを目玉政策に掲げ、労働社会相などのポストを得た。しかし現在SPDが首相候補に推すマルティン・シュルツ氏は、投資と欧州の連帯を選挙戦の柱にしており、財政規律は緩める意向を示唆している。
SPDのある幹部はロイターに、もしまたメルケル氏と大連立を組むことになれば、SPDにとっては財務相ポスト獲得が「非常に重要になる」と説明。SPDで予算問題を担当する議員も「党が得た教訓が1つあるとすれば、それは財務省を掌握せずに連立入りするべきでないということだ」と述べた。
<統合戦略に影響も>
与党CDU・CSUの複数の幹部も、メルケル氏が選挙で勝ちながらもショイブレ氏の留任を断念せざるを得なくなる可能性はあると認めている。
予算問題を議会で取り仕切るCDU幹部のエックハルト・レーバーク氏は、選挙結果を受けて再びSPDとの大連立になれば、ショイブレ氏が職にとどまるのは困難だと予想。「SPDは財政(拡大)と欧州統合に重点を置いている以上、同党と組む場合にショイブレ氏を財務相にとどめるのはこの上なく難しい」とロイターに打ち明けた。
さらに「4年前と似たような選挙結果になれば、SPDは外相だけでなく財務相ポストも求めてくる公算が大きい」と付け加えた。
メルケル氏がショイブレ氏を切り捨てるのもやむなしと判断するかどうかはまだ分からない。ただ、もしショイブレ氏が辞任すれば、メルケル氏が描く英国のEU離脱後のEU、あるいは少なくともユーロ圏の統合強化の戦略の推進には痛手になるだろう。
メルケル氏にとって、統合深化は優先順位が問題となり、その面でショイブレ氏が支えてくれる可能性があるからだ。つまりショイブレ氏なら、フランスや南欧諸国の改革を促して、その後ドイツ経済をこれらの国とより結び付けるのだと主張し、懐疑的なドイツ国民や議会をまとめ続けていけるとみられている。
(Michael Nienaber、Paul Carrel記者)

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