焦点:欧州防衛産業にドイツ排除の動き、対サウジ禁輸措置で

Andrea Shalal
[ベルリン 4日 ロイター] - ドイツが導入した武器輸出規制は、欧州の防衛産業の中で自らを「のけ者」にしてしまう恐れがある。武器開発協力や、欧州共通の防衛政策育成という自国の野望が台無しになりかねない。
サウジアラビアの著名記者ジャマル・カショギ氏が殺害された事件を受けて、ドイツは昨年11月、サウジ向け軍需品輸出の全面停止を決断した。これにより、軍縮を巡るドイツと欧州各国との長年の相違は転換点を迎えている。
ドイツの決断により、英独伊西の4カ国が共同開発した「ユーロファイター・タイフーン」戦闘機48機をサウジに売却する100億ポンド(約1兆4700億円)規模の取引を含む巨額の軍需品受注が宙に浮いている。また、欧州航空機大手エアバスなど一部企業では、自社製品からドイツ製部品を排除する動きがみられる。
ユーロファイター・タイフーンにかかわる英防衛大手BAEシステムズは、ドイツによる禁輸措置は自社の業績を圧迫すると警告。英仏両政府も撤回するようドイツの説得に必死だ。
メルケル独政権で連立を組む社会民主党(SPD)は、武器売却に慎重な有権者のさらなる与党離れを回避したいと考えており、サウジに対する武器禁輸継続と、より厳格な輸出制限で合意に達したい構えだ。
フランスや英国との不和を鎮めたいメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)は、SPDがドイツの産業と雇用を危険にさらしていると非難し、圧力を強めている。
だがSPDは、連立与党は昨年、イエメン内戦に関与する国に対する武器売却を今後停止することで合意したと指摘する。その中にはサウジアラビアも含まれる。
与党内で意見がまとまらないため、ドイツ政府は1日、禁輸の期限を現行の3月9日から延長するかどうかの決断を月末まで先送りした。これにより、欧州の同盟諸国や産業内で懸念が一段と高まっている。
「現時点で問題を解決する方法が見つからない。完全に行き詰まっている」と、欧州のある業界関係者は語った。
<フランスとの協力>
ドイツは近年、他国向けの武器売却に対する制限を強化している。サウジの武器輸入全体にドイツが占める割合はわずか2%にも満たない。とはいえ、他国の武器にドイツ製部品が使われていることから、儲けの大きい欧州の武器売却プロジェクトを失速させる可能性は十分にある。
ドイツによる対サウジ禁輸措置の影響を受けているのはユーロファイター・タイフーンだけではない。欧州ミサイル大手MBDA製の空対空ミサイル「ミーティア」も、推進システムと弾頭がドイツ製のため、輸出が足止めされている。MBDAにはエアバス、BAEシステムズ、イタリアの軍需大手レオナルドが出資している。
ユーロファイターとミーティアの取引に関する各契約は、いかなる国も一方的に輸出停止できないよう意図されていたが、それは拘束力のある正式な契約ではなく、機密性を守るという覚書としてのものだった。
ドイツ政府がこれらの契約を順守せず、サウジへの武器禁輸でフランスと協力しなかったことを受け、フランスは、向こう何十年にもわたりドイツと共同で行う巨額の武器プログラムを進める前に、拘束力ある合意を結ぶ必要性があると確信した。
仏独は「直接的な利益や国家安全保障が損なわれる」場合のみ、互いの輸出を阻止できるとした2国間の合意文書を起草している。カショギ氏殺害事件のようなケースは除外されている。
しかし、ドイツ連立与党内の亀裂がその成立を阻んでいる、と事情に詳しい関係者2人は明らかにした。また2国間合意がドイツ議会の承認を必要とするのかも不明だ。
エアバス・ディフェンス・アンド・スペースを率いるディルク・ホーケ氏はロイターに対し、新たな戦闘機や、独仏が年末までに署名する予定の新たな欧州ドローンの共同開発を進めるために合意は必要不可欠だと指摘する。
「真剣な長期解決策が見つけられなければ、ドイツとフランスのパートナーシップは長期間損なわれることになるだろう」と同氏は言う。
武器を巡る対立はまた、より統一された欧州の国防物資調達プログラム、ひいては欧州軍の創設に向けた独仏の取り組みを妨げている。武器輸出は、共同開発されたプログラムを成功させる上で決定的に重要だ。より経済的だからだ。
「ドイツの輸出政策は、フランスが1970年代に共同で開発した対戦車火器の後継を開発する決断を下した主な理由だ」。ドイツ産業連盟(BDI)のマティアス・ワクター氏はこう語る。
「軍事調達や輸出となると、ドイツ政府はまひしているというのが業界の印象だ」
ドイツはそうした政策のせいで欧州で孤立しているのかとの質問に対し、政府報道官は次のように答えた。
「この問題が、最重要同盟国の一部にとって主題となっており、決断が必要だということをわれわれは承知している。だからこそドイツ政府内で集中協議を行っており、3月以内に決断が下されるだろう」
<ドイツ抜き>
欧州では、武器に対する異なるスタンスをいかに調整するかという問題は今に始まったことではない。
だが今回がこれまでと違うのは、企業がドイツのサプライヤーを排除しようとしていることだ。
全部品の約3分の1を占めるドイツ製部品をユーロファイターから排除することはほぼ不可能だが、エアバスは中型戦術輸送機C295にドイツ製のナビゲーションライトを使用しないで済むよう再設計に着手したと、同社の関係者は先週ロイターに語った。同ライトはC295の部品の4%を占めている。
同社はまた、空中給油機「A330 MRTT」で使われている部品の約15%を占めるドイツ製品の代替品を探していると関係者の1人は明らかにした。同給油機はサウジを含む12カ国に売られている。
フランスは、ドイツと共同開発し1970年代に完成させた対戦車ミサイル「ミラン」の後継を独自に開発中だ。また関係筋によると、同国の防衛トラックメーカー、ARQUUSは中東向けに「ドイツフリー(ドイツ製を含まない)」のトラックを売り出している。
ドイツの信頼性と自主性は危機に陥っていると、ドイツ大統領の顧問をかつて務め、現在はシンクタンク「ジャーマン・マーシャル財団」(ベルリン)に所属するトーマス・クライン・ブロックコフ氏は指摘する。
「現在の輸出政策が及ぼす長期的影響は、ドイツにもはや防衛産業が存在しなくなる、ということかもしれない」と同氏は語った。
ドイツ経済省に委託されたある調査によると、同国自動車産業では2014年、雇用者数は100万人に上り、販売額は3700億ユーロ。一方、同年の防衛産業における雇用者数は8万人程度で、その売り上げは約250億ユーロと、自動車産業のほんのわずかにしか及ばない。
武器システムからドイツ製部品を排除する動きは、完了までに2、3年はかかり、それをまた元に戻すにはさらに長い期間を要する可能性があると、ある関係筋は言う。
「ドイツフリー製品にいったん切り替えてしまったら、元に戻るには何年もかかるだろう」
(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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