アングル:グーグルの量子コンピューター、その意義と影響

[ベルリン 23日 ロイター] - 米アルファベット子会社・グーグルの研究者は、原子よりも小さい量子の動きを利用したコンピューターが、世界最高性能を誇るスーパーコンピューターの計算能力を上回ることを示す「量子超越性」を達成したと発表した。
一連の乱数から特定のパターンを検出させるという課題を与えたところ、グーグルの量子コンピューターは3分20秒で解き終えた。米テネシー州のオークリッジ国立研究所にある世界最高性能のスパコンである「サミット」でも、その計算には1万年かかるとみられている。
グーグルによると、こうした圧倒的な結果は量子超越性の条件を満たしたという。つまり、従来型のコンピューターでは対応が難しかったり、全くできない課題について、量子コンピューターは完全にクリアできることを示したと説明する。
研究面において、実際にはこれが何を意味するのか、量子コンピューターがわれわれにどのような影響を及ぼすのか──という疑問点について、以下で解き明かしていく。
<量子超越性とは何か>
「量子超越性」は、この分野の研究者たちが切実な思いで追求してきた概念だ。この概念の確認は、量子コンピューターの潜在的な優秀さが、ついに実践化され、既存のコンピューターを実質的に凌駕(りょうが)した瞬間と言える。
<量子コンピューターの特徴は>
従来型コンピューターは、計算の基礎として「0」か「1」かを表すビットを用いる。要するに「イエス」と「ノー」、「オン」と「オフ」を組み合わせて論理的な課題をこなす。
これに対して量子コンピューターは、異なる状態で同時に存在できる量子の特性を利用する。具体的には、「量子ビット」もしくは「キュービット」と呼ばれる仕組みを利用し、「0」と「1」を同時に存在させることができる。専門用語では「重ね合わせ」という。
<量子コンピューターのからくり>
量子コンピューターのもう1つの特性は、量子同士が「もつれ合い」の状態となって、相互に影響し合うことができる点だ。この「もつれ合い」と「重ね合わせ」が相まって、それぞれの量子ビットの計算能力が指数関数的に高まる。
グーグルが開発した量子プロセッサ「シカモア」は、54個の量子ビットを搭載しており、このうち作動したのは53個だったが、十分な成果を発揮した。
<なぜ、実験成功まで時間がかかったか>
物理学者は、30年以上にわたって量子コンピューターを話題にしてきたものの、さまざまな難題が横たわり、開発作業は難航してきた。
例えば、量子ビットでは、計算間違いにつながる「ノイズ」を減らすため、絶対零度(摂氏マイナス273.15度)近くまで冷やす必要がある。その意味で、グーグルの研究者がかなり正確な計算を実行したことで、開発段階における1つの重要な節目に到達したと言ってよい、と物理学者は話している。
<従来型コンピューターの時代は終わるのか>
ライバルのIBMを含めた批判派は、グーグルが成果を誇大化し、量子コンピューターが事実上全ての従来型コンピューターを旧式化したという誤った印象を生み出している、と主張する。
IBMが製造したスパコン・サミットも、ディスクストレージを付加すれば、グーグルが行った乱数問題をより正確に、せいぜい2日半で解けた可能性があった。
グーグルは非常に狭い分野の課題をクリアしただけで、量子コンピューターの実用化までの道のりは、なお長いといった懐疑的な声も聞かれる。
現実の世界では、量子コンピューターは従来型コンピューターと併用され、それぞれの強みを生かすことになりそうだ。
<次の展開は>
グーグルの人工知能(AI)研究チームは、量子コンピューターが機械学習と材料科学、化学といった領域で活用する余地があると見込む。もっとも彼らも、実際に利用する前に正確性をもっと高めなければならないと認めている。
一方、量子コンピューターを悪用し、銀行口座にインターネットからアクセスするために使われているコードを解読して、不正侵入を図ることに対応するため、暗号作成者らも、すでに対応を始めている。
その結果、量子コンピューターの普及前の段階で、量子コンピューターの到来に対応した暗号技術が登場している。
<グーグルは先行者か>
グーグルは量子超越性の実証により、この分野の先行者だと名乗る権利を主張しているが、IBMもすぐ後ろに迫っている。
応用研究は広がりつつあり、新興企業も続々と誕生しつつある。量子コンピューターとクラウドサーバーをつないで、研究作業を行える日も近いだろう。
AI(人工知能)などの分野に多額の資金を投じている中国も、量子コンピューター開発を後押ししており、米国との貿易・技術を巡る冷戦の新たな「戦線」が形成されている。

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