アングル:新型コロナでアフリカ債務削減、命運握る中国の思惑

アングル:コロナでアフリカ債務削減の声、カギ握る中国の思惑
4月13日、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)がもたらした経済の大混乱に直面する世界の最貧国・重債務国を支えるため、債務削減を求める声が高まりつつある。写真は4日、ガーナのアクラで撮影(2020年 ロイター/Francis Kokoroko)
[ヨハネスブルク/北京/ワシントン 13日 ロイター] - 新型コロナウイルスがもたらした経済の大混乱に直面する世界の最貧国・重債務国を支えるため、債務削減を求める声が高まりつつある。その多くはアフリカ諸国であり、救済のカギをにぎるのは中国だ。
過去20年間、中国はアフリカ諸国向けに積極的な融資を続け、今や債権国リストの首位に立っている。つまり、中国は債務免除を含む包括的な削減措置を主導し、かつ自ら損失を受け入れるべき立場にある、とアナリストは言う。
ワシントンのシンクタンク、センター・フォー・グローバル・ディベロップメント(CGD)のスコット・モリス上席研究員は、「主役の座にあるのは中国だ」と語る。「だが現在の状況は、債権国に大きな痛みが生じることになる。彼らがそれを受け入れられるかどうか、何とも言えない」
債務削減プロセスに詳しい2人の関係者がロイターに語ったところでは、今週行われる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で予想される合意の一環として、中国はアフリカ諸国による債務支払いの一時的凍結を支持する見込みだという。
次なるステップは当然ながら債務削減ということになるが、中国はソフトパワーとしての評価を高める好機になりうるにもかかわらず、そうした役割を積極的に担う可能性は低いとアナリストは見ている。
「アフリカ諸国の債務問題は複雑で、債務状況はそれぞれの国で異なっている」と中国外務省はロイターの質問に答えた。同省は「いくつかの国と国際機関がアフリカ諸国の債務減免を求めたことは認識している。われわれは国際社会とともに、その可能性を調べるつもりだ」としている。
<中国は2国間協議に固執か>
過去に債務削減を認めてきた西側諸国と異なり、中国による対アフリカ貸付の大部分は商業ベースだ。しかも、国際通貨基金(IMF)のデータによれば、中国自体も1人あたり国民所得は2019年時点で1万153ドル(約124万円)であり、主要先進7カ国の平均4万5447ドルに比べれば、依然として新興経済国の水準に留まっている。
ロンドンのシンクタンク、オーバーシーズ・ディベロップメント・インスティチュート(ODI)のユンナン・チェン氏は、「中国はまだ大国への成長過程にあり、アフリカにとっての主要な金融パートナーとしては近年になって(略)参入してきたばかりだ」と語る。
「また中国としては、その投資に対する金銭的・経済的な見返りを得る必要がある。貸付のかなりの部分に関しては、直接的な債権放棄が行われる可能性は低い」と同氏は指摘する。
中国は自らの経済自体もこの30年間で初めてマイナス成長となると予想されるが、そうした中で、アフリカ債務問題については、「困難に直面する債務国には二国間協議で対応する」という使い古された手法を超えて、さらに踏み込もうとする意欲をほとんど示していない。
中国政府系シンクタンク、中国社会科学院のヘ・ハイフェン財政政策研究所長は、「詳細な分析を経ることなしに、あらゆる債務削減要請に応じることはできない」と語る。「要請のなかには、モラルハザードを引き起こしかねないものもある」
同様に債権者である他の政府も今は自国経済がリセッションに向かいつつある。そして、アフリカ債務の削減が間接的に中国の債権者を支援することにつながるとなると、各国がこの問題解決に相当規模のリソースを投じる可能性は低い、とアナリストは見る。
<求められる緊急支援>
アフリカ諸国の新型コロナ感染者は現時点で約1万2500人に留まっており、全世界の170万人以上に比べればごく一部に過ぎない。それでもアフリカ諸国は、原油・原材料価格の急落と、対外債務返済の膨脹をもたらす通貨安により、直接の感染とは不釣り合いな打撃を被っている。
アフリカ諸国の経済は今年大幅なマイナス成長となり、2000万人の雇用が失われる可能性があるとも予想されている。
当面の措置として、IMFと世界銀行は、世界の最貧諸国が抱える二国間債務について返済猶予とするよう債権国側に求めている。
先週、IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は、中国がこの問題に「建設的に」関与している、と述べた。ある中国当局者はロイターに対し、中国政府は二国間協議を通じた債務国との協力に前向きであり、一部の国については危機のあいだは返済を強いるべきではないという点に同意している、と語った。
アフリカ諸国の財務大臣は1000億ドル規模の経済刺激策を求めているが、そのうち440億ドルは、二国間、多国間、商業貸付などの返済猶予から得られるものとされている。
また彼らは、アフリカの最貧国が抱えている債務を免除し、それ以外については長期低金利の貸付に転換することを求めている。専門家によれば、これらは非常に大きな要求だという。
<派手な振る舞いは見られず>
ジョンズホプキンス大学のデータによれば、中国の政府・銀行・企業は、2000年から2017年にかけて約1430億ドルをアフリカ諸国に貸し付けており、その多くは大規模インフラ整備プロジェクト関連だという。アフリカにおいて、中国による貸付は今や世界銀行によるものを凌駕しているという試算もあるほどだ。
ODIの試算では、中国からの貸し付けが対外債務全体に占める比率は、ケニアで33%、エチオピアで17%、ナイジェリアで10%に達しているという。
中国による貸し付けは全般的には好条件であるものの、CGDが今月初めに発表した調査結果によれば、特に最貧国については、世銀の条件より一貫して厳しめになっているという。また中国の譲許的貸付は減少している。返済猶予期間は短く、加重平均金利は世銀の2.1%に対し、4.14%と高くなっている。
今回のパンデミックに対するアフリカ諸国の戦いにおいて中国が演じている役割は、富豪ジャック・マー氏が医療用品を飛行機に満載して届けたことも含め、非常に大きく報じられているが、債務に関しては、こうした派手な振る舞いはほとんど見当たらない。
中国政府はこれまでも重債務国との協力を重ねてきたが、そのプロセスは多くの場合、最終的な返済を確保するために短期的なプレッシャーを緩和することが目的だった。
<米は中国の影響に不快感も>
ニューヨークに本拠を置く調査会社ローディアム・グループは、中国とその債務国のあいだで最近行われたいくつかの交渉を分析し、昨年、債務免除は比較的広く行われていたものの、その金額は小さく、相当規模の追加融資を伴う場合が多いという結論に至った。
たとえばスーダンに対して、中国は2017年に1億6000万ドルの債務を帳消しにしているが、推定債務総額65億ドルに比べれば2.5%である。
ガーナのケン・オフォリアッタ財務大臣は先週、中国はもっと踏み込む必要がある、と述べた。中国外務省の広報官は、中国は相手国と個別に協議することになると述べている。
専門家らは、今般の危機においては、中国の場当たり的なアプローチではうまく行かないと指摘し、あらゆる債権国を巻き込む協調的なイニシアチブがあれば、中国政府としても、これまでは繰り返し拒否してきた各国への貸付状況の公開を余儀なくされるだろう、と話している。
米トランプ政権はこれまで、アフリカ諸国が対中国で大きな債務を抱えていることを念頭に、広範な債務削減を支援することには消極的な姿勢を示してきた。
米政府当局者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
アフリカ諸国に対する債務削減をめぐる議論に米国政府は今のところ参加しておらず、リーダーシップという点で空白が生まれている。だがアナリストらに言わせれば、中国政府の影響力が大きくなりすぎると見られる動きがあれば、米国政府は不快感を示す可能性が高いだろう。
CGDのモリス氏は、「アフリカ諸国に対する債務削減について、中国が主導権を握り、便乗する好機と考えるだけでも、米国は背を向けてしまう可能性があるのではないかと懸念している」と言う。
(翻訳:エァクレーレン)

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