焦点:明示的な政策指針示せない中銀、FRBは近く戦略修正も

[ワシントン/東京 11日 ロイター] - 主要国の中央銀行は、長い時間をかけてアナウンスメント効果が経済に及ぼす影響を分析し、「フォワードガイダンス(政策指針)」に磨きをかけてきたが、今回の新型コロナウイルス危機では、事実上、明示的な政策指針を掲げられない状況に陥っている。
今後6カ月の経済見通しについては、恐慌からV字型の回復まで様々なシナリオが浮上しており、主要国中銀は、長期戦で経済を支援する意向を示す以外、具体的にどの時点でどのような対策を講じるかを明示できていない。
これは「危機時には明示的なフォワードガイダンスが有効」とする最近の説に反する動きと言え、特に米連邦準備理事会(FRB)は近く、現在の戦略を修正する可能性がある。
FRBで過去1年かけて形になってきた危機対応戦略に従えば、次の局面では、債券買い入れなどの政策範囲をさらに明確にし、具体的にどのような形で長期金利の低下を促すのかを明示することになるはずだ。
FRB当局者は、現時点では見通しがあまりに不透明で具体的なプランを明示するのは難しく、その必要もないとしているが、アナリストの間では、早ければ次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)で戦略の修正に乗り出すのではないかとの見方が浮上している。
シカゴ地区連銀のエバンズ総裁は先週、記者団に「今後どうなるのか、失業率がピークに達した後、反転し、どの程度の水準で落ち着くのかという見通しがもっとはっきりすれば、(今後の政策の方向性を示すための)条件が改善する」と発言。「こうした点を考える時間はある」と述べた。
こうした中、先週末発表された4月の雇用統計は、FRBにとって新型コロナの経済への影響度を初めて垣間見る機会となった。失業率は14.7%と、2007-2009年の景気後退時を上回った。3月に外出制限措置が導入されて以降、失業者数を月間ベースで完全に把握できたのは今回が初めてだ。
これはFRBが今後どのようなフォワードガイダンスを示すかを議論する上での基礎データともなる。FRBは現在「経済が最近の状況を乗り越えたと確信」できるまで政策金利をゼロ付近で据え置く方針を示している。
他の主要国中銀も、全体としては「必要なことは何でもする」という同様の政策指針を示している。
日銀は新型コロナの感染が終息するまで、金利を現在の水準もしくはそれを下回る水準で維持する方針だが、黒田東彦総裁は最近、感染拡大の行方が不透明なため、いつまで金利を現在の水準もしくはそれを下回る水準に維持するか明らかではないとの認識を示した。
以前、フォワードガイダンスで失業率の目標を明示していたイングランド銀行(英中央銀行)も先週、「経済の見通しがどのように変化しても必要なことを行う」という漠然とした指針に移行している。
主要国中銀でも特に精緻な政策構造を構築していた欧州中央銀行(ECB)も「コロナ危機の局面が終息したと判断」できるまで、危機対応の柱となる債券買い入れを継続すると表明。終息時期の判断は難しく、地域差が出る可能性もある。
<危機時に有効な対策>
新型コロナの流行の行方が不透明なため、正確な予測ができないのは当然だと言える。
近年の研究では、「失業率が特定の水準に下がるまで低金利政策を続ける」といった具体的な目標を明示した金融政策が、危機時には有効とされている。また、政策金利がゼロになった場合も、債券買い入れのような政策を組み合わせて、長期金利の低下を促すことが有効とされている。
バーナンキ元FRB議長も1月の講演で、具体的な目標を明示したフォワードガイダンスと大規模な債券買い入れを組み合わせれば、政策金利をゼロに引き下げても政策の限界を「おおむね補完できる」と述べている。
FRBは債券買い入れを再開したが、前回の金融危機時のような「量的緩和」とは一線を引いている。3月中旬以降の2兆5000億ドルにのぼる債券買い入れは、米債を取引するグローバル市場の機能を維持することが狙いだ。
FRBが最初に文言を変えるのはこの領域かもしれない。債券買い入れの目的は、市場機能の維持だけではなく、金利低下を通じて景気を刺激し、力強い回復を促すことにあると明言する可能性がある。
ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は先週のオンラインイベントで「今後はそうした手段も使える可能性がある。長期国債を買い入れてさらに刺激するという手段だ」とし「この状況からの脱却がいったん始まれば、できる限り力強い回復を望む」と述べた。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab