コラム:経済配慮に傾くパンデミック対策、健康リスク拡大に不安

コラム:経済配慮に傾くパンデミック対策、健康リスク拡大に不安
4月14日、新型コロナウイルスとの闘いで、経済が再びスポットライトの中央に立ちつつある。写真は15日、独モンタバウワー近郊で撮影(2020年 ロイター/Thilo Schmuelgen)
Lisa Jucca and Ed Cropley
[ミラノ/ロンドン 14日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 新型コロナウイルスとの闘いで、経済が再びスポットライトの中央に立ちつつある。西側諸国の政府は自国の深刻な景気後退に直面し、封鎖措置で停止状態になった産業セクターを再開させようとしている。それが感染再拡大のリスクを伴ってもだ。
イタリア政府は英携帯電話ボーダフォンの元最高経営責任者(CEO)、ビットリオ・コラオ氏を経済再開に向けた作業チームの責任者に任命した。これは「振り子」がこれまでと逆に振れる兆候であると同時に、そうした方向に世の中がこれから展開していくことを示唆してもいる。
欧州各国政府は感染者数の伸びが鈍ってきたように見えることに勇気付けられ、幅広い制限措置の緩和に乗り出している。オーストリアでは14日、数千もの店舗が再開した。デンマークは15日に学校を再開させる。
フランスも5月11日の封鎖期限が終了した時点で、店舗も学校も再開させたい意向だ。ただし、大規模な集会や旅行の禁止は続く。
こうした戦略は健康面のリスクを伴う。新型コロナのワクチンはまだないのだ。いつ封鎖の緩和や解除をすべきか、その正しいタイミングを判断するのは至難の業だ。
疫学の専門家によると、報告されている感染者数は世界全体で200万人だが、実際にはこれよりもっと多い可能性が高い。それであってもなお、人類がいわゆる「集団免疫」を獲得するには感染者数が少な過ぎる。
しかし、経済的なコストは膨らんでいる。フランス政府は14日、今年の財政赤字見通しを対国内総生産(GDP)比で9%にまで拡大した。つい先週、7.6%としていたばかりだった。
コラオ氏は一大グローバル企業の元経営トップであり、企業が直面しているキャッシュフローや資金繰りの悪化への対応策などには明るいはずだ。ボーダフォンにいた経験を見れば、中国や韓国が行っているような携帯電話を使った感染者追跡技術の導入にも適任と言える。企業経営の立案に長年携わっただけに、いつ封鎖を解いて何を再開させるべきかの明確な行程表づくりもうまくできるだろう。もちろん、感染再拡大の惨事がまた起きないという前提に立っての話だ。
とはいえ、(感染者追跡という)技術革新は、移動の自由をとるか、それともより本質的な自由をとるか、という選択を個々人に迫ることになるかもしれない。
マッキンゼーによると、新型コロナによる経済的損失の大半はこれまでのところ、供給側で起きているのではなく、需要側への打撃から生じている。消費者など需要側の打撃を修復するには、経済判断というよりも、政治的かつ健康面に配慮した対応が必要になる。これはコラオ氏の専門分野ではあまりなさそうに見える。
それでもなお、ボーダフォンの元トップの任用は歓迎だし、他国の政府も注目するはずだ。企業には、何を再開しようとし、経済的コストの観点で再開の日程をいつに組むか、国際的なサプライチェーンをどう立て直すかについて、はっきりした行程表が必要になる。コラオ氏や、同氏と似たような考えに立つ作業部会がそうしたスケジュールを作れるなら、良い滑り出しになるだろう。
●背景となるニュース
*オーストリアは14日、欧州諸国の先陣を切る形で封鎖措置の緩和に踏み切り、ホームセンターや園芸用品店など数千の店舗が営業を再開した。
*欧州で新型コロナの報告死者数の最も多いイタリア政府は10日、全土の外出禁止措置を5月3日まで延長する一方、書店や文具店、子供服店は4月14日から再開を認めると発表した。封鎖措置からの出口戦略を策定する専門委員会のトップに、英携帯電話ボーダフォンの元最高経営責任者(CEO)、ビットリオ・コラオ氏を任命した。
*フランスのマクロン大統領は13日、全土の外出制限を5月11日まで延長するが、それ以降は店舗や学校を徐々に再開させる方針を発表した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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