アングル:HIV患者に不当な風評、新型コロナ禍で対策逆戻り

アングル:HIV患者に不当な風評、新型コロナ禍で対策逆戻り
 マラウイの学生コンドワニさんは、人生の大半を通じて、HIV陽性という不名誉なレッテルに立ち向かってきた。だがCOVID-19によって、再び旧態依然とした偏見が甦り、「コロナ持ち」という新たな罵倒の言葉が生まれている。写真は新型コロナウイルスのイラストレーション。米疾病対策センターが1月に提供(2020年 ロイター/Alissa Eckert, MS; Dan Higgins, MAM/CDC)
Charles Pensulo
[ブランタイア(マラウイ) 12日 トムソン・ロイター財団] - マラウイの学生コンドワニさんは、人生の大半を通じて、HIV陽性という不名誉なレッテルに立ち向かってきた。だがCOVID-19によって、再び旧態依然とした偏見が甦り、「コロナ持ち」という新たな罵倒の言葉が生まれている。
「HIV陽性者は新型コロナに感染するリスクが高い」という誤解が広まったことで差別がさらにあおられ、HIV陽性者が必要とする医療にアクセスすることがますます困難になっている、とアフリカ南部の国マラウイの医療啓発活動家は語る。
24歳のコンドワニさんによれば、この偏見により、マラウイのHIV陽性者110万人のあいだに不安が広がっているという。英国の慈善団体アバートによれば、マラウイは世界でもHIV感染率が最も高い国の1つである。
姓を明かさない条件でトムソン・ロイター財団の取材に応じたコンドワニさんは、「こうしたレッテル貼りのせいで、HIVを抱えて生きている人にとって不必要な恐怖が生じている」と語った。
<いわれなき中傷、外出もできず>
「誰もが新型コロナに感染し、命を落とす可能性がある(というのが真実だ)」と農学専攻のコンドワニさんは言う。
国連共同エイズ計画(UNAIDS)の上級科学顧問ピーター・ゴッドフリーフォーセット氏によれば、HIVとCOVID-19の関連を示す証拠はまだ解明途上であるという。
同氏はメールのなかで、「HIV陽性者の場合、新型コロナウイルスの感染リスク、あるいは重症化リスクがわずかに高いように思われるが、そのリスクは、高齢や肥満、糖尿病といった他の条件・特性に比べると段違いに低い」と述べている。
だが医療従事者や支援活動家によれば、マラウイで暮らすHIV陽性者の多くは今、新型コロナに感染することを恐れるあまり、ステイホームに徹しており、薬の受取り予約をキャンセルしたり、支援グループの会合にも欠席しているという。
またUNAIDSでマラウイ担当ディレクターを務めるヌハ・シーゼイ氏によれば、ロックダウン期間中はHIV検査実施件数も35%減少したという。医療啓発活動家は、COVID-19のパンデミックのせいで、マラウイで着実に進展してきたHIV/AIDS対策が数年分は逆戻りしてしまう可能性があると懸念している。
ブランタイアで活動するマラウイの医療啓発活動家グレイス・ングルベ氏(25歳)は、「咳やくしゃみをしただけで、新型コロナでないかと疑われてしまう。HIV陽性者であることが知られていると、それがさらに顕著だ。人々は今、自分がHIV陽性であるかどうかをオープンに口にすることさえ恐れている」と話す。
<「通院するのも怖い」>
米疾病管理予防センター(CDC)によれば、HIV陽性者が新型コロナウイルスに感染した場合に重症化するリスクの主要な原因は、CD4細胞の数が少ない、つまり効果的な抗レトロウイルス療法を受けていないことだという。
UNAIDSのシーゼイ氏によれば、マラウイのHIV陽性者110万人のうち、抗レトロウイルス療法を受けているのは約80万2000人である。
マラウイにおける新型コロナウイルスの感染拡大は、これまでのところ比較的穏やかである。アフリカ疾病予防管理センターによれば、感染者は5800人、死者は約180人である。
だがパンデミックによる経済への打撃は深刻であり、政府は予算資源を医療分野に回さざるをえず、財政赤字を補填し食料安全保障を確保するために外部からの資金調達を模索している。
また1800万人近い人口を抱えるマラウイ国内の支援グループや医療施設では、HIV/AIDSなどの主要な公衆衛生上の危機に関する治療や啓発キャンペーンについて再考せざるをえなくなっている。
「男性の自発的な包皮切除やHIV啓発プログラムは中止された。多くの人々が集まることで新型コロナ感染のリスクにさらされないようにするためだ」とシーゼイ氏は言う。
地域開発を学ぶ22歳の学生ホープ・バンダさんによれば、彼女をはじめとするHIV陽性者は、最近訪れた病院でスタッフから疑いの目を向けられる経験をしているという。
ブランタイアの祖母の家で取材に応じたバンダさんは、「私たちの多くは今、病院に行くことを恐れている。入口のところで、保健手帳をチェックされるからだ」と話す。
マラウイの「保健手帳」には患者の病歴が記載されており、そこにはHIV陽性の有無も含まれている。
マラウイ保健省のHIV治療部門ディレクターを務めるローズ・ニイレンダ氏は、HIV陽性者が他と異なる扱いを受けているとするバンダさんの主張を否定する。
「それは事実ではないと思う」とニイレンダ氏は言い、喘息や結核でしきりに咳をしていれば、あるいは新型コロナ感染者と決めつけられる可能性はあるかもしれない、と言う。
ニイレンダ氏は電話インタビューで、「HIV陽性者を警戒するべき理由などあるだろうか。HIV陽性者のほとんどは抗レトロウイルス療法を受けており、普通の生活を送っているというのに」と話している。
同氏の部局では、パンデミックの期間中は6ヶ月分の薬剤を処方することで、病棟・診察室の混雑を緩和することをめざしている。
<「コロナ持ち」という罵倒>
若者主導による支援グループ「HIV(y+)」の運営に協力しているバイオレット・バンダ氏は、以前からの偏見が強まっていることが約8000人の会員を抱える彼女のグループにも影響を与えていると嘆く。
「私たちの会員のなかにも、新型コロナの感染者だと攻撃される風潮が生じている」と同氏は言う。また、一部の会員については、病院がCOVID-19への対応を優先しているため、[HIV]ウイルス量の検査や性的健康サービスの利用が困難になっているという。
「とにかく必要なのは、人々が信頼性の高い発信元からの情報を得ることだ」と彼女は言う。
パンデミックが続くなかでバンダ氏が力を入れているのは、会員が自らの健康を維持する方法について信頼できる医療情報にアクセスできるようにすることだ。
「個人防護具を会員に配布するとともに、HIVと新型コロナウイルスについての啓発を進めている」と彼女は言う。
こうした取組みもロックダウンによる制約により困難になっているが、パンデミックが続くなかで、戸別訪問やオンラインでのチャット、電話も同グループによる支援プログラムの一角を占めるようになっている。
ブランタイアの啓発活動家で「全国若年HIV陽性者協会」の設立者でもある前出のングルベ氏は、直接会うことを恐れる会員と連絡を取るため、メッセージアプリ「ワッツアップ」を活用している。
バンダ氏と同様、彼女も、恐怖やHIV陽性者に対する偏見に立ち向かうには知識こそが鍵だと話している。
「こうした危険な誤解と戦うために必要なのは市民教育だ」
(翻訳:エァクレーレン)

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