アングル:相次ぐコロナ治療薬「画期的成果」、データ不備で混乱も

アングル:相次ぐコロナ治療薬「画期的成果」、データ不備で混乱も
 6月16日、世界的に新型コロナウイルスの治療薬やワクチン開発への圧力が強まる中、新たな研究成果が矢継ぎ早に発表される一方、それを裏付けるデータの不備から有効性が証明されたのかどうかについて混乱が生じる事態も出ている。写真はステロイド系抗炎症薬「デキサメタゾン」。6月16日、ベルギーのブリュッセルにあるエラスム病院で撮影(2020年 ロイター/Yves Herman)
[16日 ロイター] - 世界的に新型コロナウイルスの治療薬やワクチン開発への圧力が強まる中、新たな研究成果が矢継ぎ早に発表される一方、それを裏付けるデータの不備から有効性が証明されたのかどうかについて混乱が生じる事態も出ている。
新型コロナ治療の効果について各地で臨床試験が行われている抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」。先月、医学誌ランセットは患者の死亡リスク増大と関連があるとした研究報告を掲載、注目を集めた。
しかし、その報告は今月に入って撤回された。データの信ぴょう性を巡る懸念が理由だった。
ステロイド系抗炎症薬「デキサメタゾン」についても、16日、治療のブレークスルー(画期的な手法)になるという研究報告が出た。しかし、米国内の医師らには、期待感と同時に懐疑的な見解もある。
デキサメタゾンに関する英国の研究チームの報告によると、同薬の投与で新型ウイルス感染症(COVID-19)が重症化した患者の死亡率が約30%低下した。できる限り早期に研究の全容を発表するとしている。
米ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院の内科集中治療室(MICU)責任者、キャサリン・ヒバート医師は「新型コロナ流行の発生後だけでなくそれ以前も、興奮するような研究結果に説得力のあるデータが伴わないケースがあり、煮え湯を飲まされてきた」と指摘。
その上で、デキサメタゾンに関する研究結果が「真実であると強く期待している。患者を救うための大きな前進になるからだ」と述べた。ただ、現時点で治療の手法は変えないとした。
ニューヨーク州最大の医療機関、ノースウェル・ヘルスで副医長を務めるトーマス・マッギン医師は、ステロイド剤は免疫を抑制する可能性があると警鐘を鳴らす。同医療機関の医師らはケースバイケースでステロイドを使用しているという。
研究撤回の事例もあるため、「実際のデータが出るのを待って確認するつもりだ。査読を受け、正式に誌面に掲載されるのを待つ必要がある」とした。
ワシントン大学のマーク・ワーフェル医学教授は、誌面で論文を発表する前にデータを公表するよう研究者らに呼び掛けた。研究対象の患者とそれぞれの医師が担当する患者との共通点を確認し、特定の治療法を採用するのが適切かどうかを判断する上でデータが有用だと説明した。

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