アングル:一部中銀、緊急緩和からの出口を模索 市場はブラフと静観

[23日 ロイター] - ロックダウン(都市封鎖)が解除されるにつれ、複数の中央銀行が3カ月前に導入した緊急金融緩和策からの出口を示唆し始めた。ただ市場は、それらはまだブラフだと考えている。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)による経済への影響を緩和するため、世界の5大中央銀行が導入した資産買い入れ額は計5兆ドル。これにより世界の株価は史上最高値にあと10%に迫る水準にまで押し上げられ、6月の購買担当者景気指数(PMI)でも世界経済の回復が確認された
中銀のなかには、大規模な金融緩和は永遠に続かないことを示唆しているところもみられる。イングランド銀行(英中銀)は先週、債券買い入れペースを緩める方針を示した。
2008年の金融危機後の10年間には、金融緩和の縮小が示唆されるたびに市場が動揺するという、いわゆる「テーパー・タントラム」が巻き起こった。ただ今回は当時とは異なり、市場はほどんと気に留めていない。
イングランド銀行に対する市場の反応は、英ポンドのわずかな値上がりと債券価格の小幅下落のみ。中国人民銀行の易綱総裁が18日、適切な時期に緩和策を巻き戻す出口戦略をあらかじめ検討しておくべきと述べた際も、市場の反応はそれほど大きなものではなかった。
中央銀行が資産の購入を現在のペースで維持することを警戒する理由は多い。最も大きいのは、中国人民銀の易総裁が言うように債務の「後遺症」が残りかねないということだろう。しかし投資家らは、当局者はまだ政策変更に向けた地ならしを行っているにすぎないと考えている。
レッグ・メイソンのアフィリエイトで投資ストラテジー部門のチーフ、キム・カテキス氏は、市場の一部は中銀の言葉に耳を傾けてはいるが、ブラフだと考えていると指摘。投資家は中銀を消防士と見なしているとして「消防士は完全に火が消えるまで水を出し続ける。投資家は、まだ中銀の仕事は終わっていないと考えているのだ」との見方を示した。
市場の反応が鈍い理由の1つは、米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、日銀の3大中銀が緩和政策を緩める兆しを見せていないことだ。パウエルFRB議長は先週、「アクセルを踏み続ける」と確約したばかりだ。
また前回の危機時と異なり、各国政府も足並みを揃えて、雇用対策などの財政刺激策を導入していることも理由に挙げられる。
スイスの資産運用会社ユニジェスチョンの投資マネージャー、サルマン・ベイグ氏は「FRBとECBを見る限り、金利引き上げを急いでいるとは思えない。少なくとも今のところ、心配しすぎてはいない」と述べた。
7兆ドルを超すFRBのバランスシートは先週、2月以来初めて縮小し、レポ残高も9カ月ぶりの水準まで低下した。ただこれは、短期金融市場での資金調達圧力の緩和や、外国中銀による通貨スワップ協定の利用が大幅に減少したことを反映したに過ぎない。
<平常化>
市況の改善を考えると、政策の修正も避けられないことかも知れない。
スタンダード・チャータード銀の欧州チーフエコノミスト、サラ・ヘウィン氏は「現在の緊急対応は永遠に続くわけではない」とした上で「量的緩和下にはあるが、最大出力で緩和する必要があると考えてはいない」と話した。
現在の債務水準に違和感を感じる当局者もいる。英国の府総債務残高(対GDP比)は最近、100%を突破。国際決済銀行(BIS)が「新常態」に対応したものに戻すよう警告を発する事態となった。それでも、すぐに深刻な揺り戻しが起きるとみる向きはほとんどいない。[nL4N2D934J]
また過去の例もある。2011年にECBが利上げを行い、FRBがバランスシートの縮小を始めたことが、2008年金融危機からの景気回復を遅らせた原因だとしばしば指摘される。
資産運用会社ロベコのポートフォリオ・マネージャー、ジェローン・ブロックランド氏は「蛇口を一杯開け、早く締めすぎるな──これが金融危機から得た大きな教訓の1つだ。中銀は、回復が完全に軌道に乗った時に初めて緩和政策を段階的に縮小するだろう」と語った。

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