焦点:迷走する米政府の支援策、企業や消費者に資金届かず

焦点:迷走する米政府の支援策、企業や消費者に資金届かず
 4月8日、細かいことは後回しにして、とにかく早くお金を支給する─。米政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、巨額の経済対策を打ち出した。しかし、スピード重視の約束とは裏腹に、これまでのところ企業や消費者の手元には肝心の支援金が届いていない。写真はホワイトハウスで3月撮影(2020年 ロイター/Jonathan Ernst)
[ワシントン 8日 ロイター] - 細かいことは後回しにして、とにかく早くお金を支給する─。米政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、巨額の経済対策を打ち出した。しかし、スピード重視の約束とは裏腹に、これまでのところ企業や消費者の手元には肝心の支援金が届いていない。
原因はシステム障害から政策の細部を巡る混乱まで多岐にわたるが、経済対策の履行で連邦政府の迷走が続けば、すでに歴史的なスピードで進行している米国の景気後退が一段と深刻化、長期化する恐れがある。
失業保険の申請件数が過去最多に膨れ上がっているにもかかわらず、各州政府は旧式のシステムで対応に右往左往している。外出制限で従業員の在宅勤務を余儀なくされている大企業も、政府の融資計画の詳細がまだわからず途方に暮れている状態だ。
膨大な数にのぼる中小企業は一刻も早く資金を必要としているが、銀行は煩雑な書類手続きに苦戦しており、支援金は流れていない。
連邦準備理事会(FRB)は、金融市場や大企業を支援するため、無制限の量的緩和など矢継ぎ早に対策を打ち出したが、中小企業向けの融資対策はまだまとまっていない。
さらに悪いことに企業からは、先月下旬に成立した2兆3000億ドル規模の経済対策でも、資金が足りないとの声が出ている。
オックスフォード・エコノミクスの米国担当チーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は、何日待っても支援金が届かない状態が続けば「全米の企業・家計に不要な圧力がかかる」と警告している。
<迅速な立法と遅い執行>
米国内で急増する失業者への給付金などが盛り込まれた2兆3000億ドル規模の「コロナウイルス支援・救済・経済保障法」(CARES法)は超党派の支持で議会を通過、トランプ大統領の署名を経て3月27日に成立した。[nL4N2BK4I2]
議会が迅速な対応でまとまったのは、政府の広範な救済策がなければ企業が破綻し、家計の借金が返済不能となるケースが急速に増え、金融システムの崩壊につながるとの懸念が強まっていたからだ。そのような状況になれば、リセッション後のV字回復は期待できなくなり、代わりに慢性的で構造的問題が増加する恐れがある。
しかし、失業者や企業の救済策が相次ぎ打ち出される一方で、行政の負担は増え、支援の提供に深刻なボトルネックが生じている。
週間の失業保険申請件数は従来の数十万件から数百万件に膨れ上がり、各州政府の事務処理能力では処理が追い付かない状況になっている。[nL4N2BO5Z5]
インターネットで短期の仕事を請け負う「ギグエコノミー」の労働者を対象とした給付金はCARES法の目玉政策だが、失業申請を受け付ける州当局のウェブサイトでは依然として、給付金についての説明がない。これとは別の、個人1人当たりに最大1200ドルの小切手を送る救済策についても、実施時期が明確になっていない。
航空会社などの大手企業はCARES法の下で融資の対象となったが、手続きの仕方や時期などについて財務省の指示待ちの状態が続いている。
さらに、米経済の屋台骨とされる中小企業は、政府が約束した小切手や緊急融資の実行が遅れていることに不満をあらわにしている。
ムニューシン財務長官は、3500億ドル規模の「給与支払い保護プログラム」と呼ばれる中小企業支援融資制度が今月3日に始動した際、中小企業は銀行に行けば融資を受けられると述べていた。しかし、そのわずか数日後に申請書類の書式やオンライン障害など技術的な問題が噴出、一部の銀行は申請処理が進められず、大きな遅延に見舞われた。[nL4N2BV1F0]
銀行側は、財務省や中小企業庁(SBA)からの情報に矛盾や不足があると不満を述べており、企業側は銀行側が対応していないと批判している。米中西部の銀行関係者は「混乱が続いている」と嘆いた。
同支援制度が機能不全を目の当たりにしたFRBは6日、銀行に対して同制度で融資した分の資金を提供する方針を示した。[ID:nL4N2BU3NH]
しかし、融資が行き渡るまでのつなぎの支援金もまだ企業の手元に届いていないようだ。SBAの災害融資制度に前週初めに申し込んだ中小企業は、融資の前金として1万ドルを3日以内に受け取るという項目にチェックを入れることができたが、複数の企業は、1週間以上経ってもまだ前金を受け取っていない、とロイターに明かした。
SBAは取材に応じていない。ムニューシン長官は7日、議会に対し、中小企業からの需要が大きいため、2500億ドルの追加支援を可決するよう要請した。
トランプ政権高官の大半が、こうした問題を認めている。しかし一方で、市民や企業を賃料支払いや債務返済などの期日到来前に救済するという法案の趣旨は達成できるだろうと話す。
ムニューシン財務長官は7日、フォックス・ビジネス・ネットワークの番組で「大統領はこの資金を早く経済に注入しろと、われわれに指示した。(そうなることを)保証する」と述べ、財務省が航空業界のアドバイザーと会い、航空会社向け融資実現に「早急に取り組んでいる」と説明した。
トランプ氏は支援策を巡る問題はないと主張。4日の会見で、小規模企業向け融資プログラムでの問題は一切聞いていないとし、「それは嘘だ。予定より進んでいる」と述べた。
<FRB頼み>
FRBは、規模、スピード感ともに2008年の金融危機時以上の対応をしてきた。
しかし究極の救済措置として、4兆5000億ドルにまで増額する可能性のある中小企業、地方政府など向け資金支援プログラムについては、まだ準備段階だ。ムニューシン財務長官と同じく、FRB幹部らも詳細は「近々」と説明するにとどまっている。
そのプログラムが動きだすまでは、実体経済はあたかも一時停止動画のように、いつどのようなライフラインが到着するか待っている状態だ。
州や市といった地方自治体、その他政府機関は財政が厳しい。地方債市場では極度に高い金利を払わなければ資金調達できない。
地方自治体などの財務当局者で成るGFOA(Government Finance Officers Association)の政策ディレクター、エミリー・ブロック氏は、FRBが流通市場で買い上げてくれれば、新規発行の余地が生まれると説明。
「利回り押し下げに向け、FRBには他の投資家を納得させる知見ある投資家になってほしいと頼んでいる」と語った。
*内容を追加しました。

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