焦点:香港取引所、ロンドン買収失敗で中国本土へ回帰

焦点:香港取引所、中国本土回帰の公算 LSE買収失敗で模索
 10月9日、「われわれは企業版のロミオとジュリエットだ」──。香港取引所(HKEX)の李小加(チャールズ・リー)最高経営責任者(CEO)は、ロンドン証券取引所(LSE)グループに対して一方的に買収を提案。写真は李CEO。ニューヨークで2018年6月撮影(2019年 ロイター/Brendan McDermid)
[香港 9日 ロイター] - 「われわれは企業版のロミオとジュリエットだ」──。香港取引所(HKEX)<0388.HK>の李小加(チャールズ・リー)最高経営責任者(CEO)は、ロンドン証券取引所(LSE)グループに対して一方的に買収を提案。不首尾に終わると、英小説「不思議の国のアリス」の著者、ルイス・キャロルの言葉を引用しながら、なお、諦め切れない心情をブログにつづった。
その李氏が、次のHKEXの戦略を描く際には、中国古典の中から選び出した言葉を駆使して自らの思いを語るのだろか。
なぜなら、HKEXが今後しばらくは、中国本土の取引所とのつながりを強化する路線に再び注力する、と投資家やアナリストが予想しているからだ。
HKEXは、LSEに390億ドルでの買収を打診した。リフィニティブによると、株式交換方式による失敗したディールとしては、2016年にドイツ取引所がLSEに提示した139億ドルを上回り、過去最大を記録。「逃した魚」は大きかった。
ただ、米国に拠点を置く資本市場助言会社、タブ・グループの創業者、ラリー・タブ氏は「李氏はLSE(買収)が成算の乏しい案件だと百も承知だったに違いない。だから私は、この提案は李氏が自身の積極性を中国政府にアピールし、上海をはじめとする本土の取引所との関係で、有利な立場を得るのが本当の狙いだったと思う」と話した。
もちろん買収の挫折は、香港で4カ月にわたって続いている政治・社会の混乱にも起因している。LSEの経営陣や株主による拒絶には、中国と関係の深いHKEXに経営権を握られることへの懸念がにじみ出ていた。
インターネットで調査リポートを公表しているバリンガル・インベストメント・アドバイザーズのデービッド・ブレナーハセット氏は「これでHKEXのグローバルな展開にブレーキがかかる。だから彼らは、今後の成長を中国国内に見出そうとする」と指摘した。
HKEXは、この記事で言及されている将来の計画について、コメントを拒否した。だが、史美倫(ローラ・チャ)会長は9日、LSE買収が成功しなかったのは残念としつつも、この案件はあくまでHKEXの3本柱の戦略の1つに過ぎないと強調した。3本柱とは、中国との結合、新技術重視、野心的な国際展開だ。
<従来路線への回帰>
HKEXによる中国関連取引強化の歴史は、よく知られている。
2014年に本土との株式取引の相互接続を開始し、17年には海外の投資家が中国国内の債券市場にアクセスできるようにした。
将来の成長に向けて強く希望しているのは、中国本土の投資家による香港での債券取引を可能にする仕組みの導入だ。香港の新規株式公開(IPO)に本土投資家が直接参加を認められる未来像も描いている。
さらに李氏は、本土投資家に香港の上場投資信託(ETF)を提供する可能性にも言及してきた。
モーニングスターのアナリスト、マイケル・ウー氏は「LSEの買収は成長に関する話だったが、HKEXが以前に打ち出した戦略、つまり債券や通貨、コモディティ関連の商品開発にも成長の可能性が秘められている。彼らはこの路線に立ち戻るだろう」と語った。
そうした動きの一環として、HKEXは12年に買収したロンドン金属取引所(LSE)の事業拡大、とりわけアジアと中国での基盤強化に熱心だ。
資産運用会社・ペンダルのグローバル株式責任者、アシュリー・ピッタード氏は「LME事業には大幅なコスト節減とコモディティ関連商品拡充の余地があり、経営陣がこれらの事業の成長オプションを実行すれば、その組み合わせは長期的に相当な増益基調を促してくれるはずだ」と期待する。ペンダルは、HKEXの株式保有上位15社に名を連ねている。
目先で言えば、MSCIの中国指数をベースとした先物商品の立ち上げを既に発表しており、そこに注力していくことになる。これらはMSCI中国指数関連で初めて国際的に取引される先物だ。
<希望は消えず>
HKEXはこれまで、かつて英国の植民地だったという立場を最大限活用し、中国本土と国際金融資本市場の資金の橋渡し役を担ってきた。その結果、過去10年のうち5年間は、上場額ベースで世界最大の取引所になった。
ところが、本土の市場が発展を続け、HKEXが本土にさらに食い込むことが一段と難しくなってきた。
特に活発なのはM上海証券取引所。今年、中国版ナスダックと称される「科創板」を立ち上げ、HKEXが昨年、上場基準緩和で取り込みを狙ってきた新興ハイテク企業の上場を促そうとしている。
バリンガルのブレナーハセット氏は「本土と香港で競合関係が生まれているのは間違いない」と指摘。その先はHKEXが、上海もしくは深センの証取と合併する道筋が論理的だとの見方を示した。
ブレナーハセット氏によると、香港と本土の取引所の統合は、当然ながらどういう構造になるか次第ではあるものの、推進していくのが非常に妥当に思われるという。
一方で、李氏の大胆なLSE買収計画がとん挫したとはいえ、HKEXが将来的に海外取引所とのディールをまとめる可能性は捨てきれないとの声も聞かれる。
ペンダルのピッタード氏は「より長い目で見ると、世界的に取引所再編が進むことに疑いの余地はない」と予測。その結果、高い固定業務費用を削減できるメリットがあると指摘した。
同氏は「短期的には主に規制当局が障害になっているが、長期的には欧州とアジアの取引所の統合が実現する可能性がある」と主張した。
(Sumeet Chatterjee、Alun John記者)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab