コラム:香港の格差問題、財閥と富裕層が迫られる本気の対応

コラム:香港の格差問題、財閥と富裕層が迫られる本気の対応
10月16日、今こそ、香港の不動産財閥が、手ごろな集合住宅建設に全力を注ぐ時だ。写真は香港のアパート群。6月撮影(2019年ロイター/Thomas Peter)
Robyn Mak
[香港 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 今こそ、香港の不動産財閥が、手ごろな集合住宅建設に全力を注ぐ時だ。
林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、4カ月にわたる抗議デモを助長した深刻な格差問題に取り組むと約束した。ところが、16日の施政方針演説に盛り込まれたのは、いかにも小ぶりで継ぎはぎだらけの政策措置にとどまった。だから香港の富裕層が保持している利益を守りたいならば、この問題を自分たちの手で解決することを迫られている。
香港の中心地で起きた反政府デモの矛先は、必ずしもいびつな経済発展に向けられているわけではない。だが、住宅不足や継続する所得格差の拡大が、市民の怒りを増大させたのは間違いない。
林鄭氏が率いる政府の「新たな船出」と喧伝された割には、打ち出された政策は公共住宅用の土地収用から住宅ローンの規制緩和まで断片的な施策にとどまり、住宅政策に関する全体構想が全く見えない内容だった。つまり役には立つが、人々の心に響かない提案を同氏は行ったことになる。
もし、林鄭氏が住宅政策で主導的な役割を果たせないなら、誰ができるだろうか──。郭氏の一族が経営権を握る新鴻基地産<0016.HK>や恒基兆業地産(ヘンダーソンランド・デベロップメント)<0012.HK>、他の同族経営型の複合企業が、音頭を取りたいと考えるかもしれない。
彼らが推定1000ヘクタールの農地を手元に抱えて、不動産価格を押し上げているとの批判は強まる一方だ。香港内からの苦情だけでなく、中国共産党機関紙・人民日報は9月、不動産開発会社が「土地ころがし」で「上前をはねる」のをやめるよう警告した。
香港経済が抱える惨状の全責任が、エリート層にあるわけではない。それでも政治の不安定化と暴力のエスカレートによって、失うものが最も大きいのも彼らだ。調査会社・デモグラフィアの試算では、香港の平均住宅価格は家計所得の21倍に達し、9年連続して世界で最も住宅購入が難しい市場となっている。
国際NGOのオクスファムが2018年に公表したリポートによると、完全雇用に近いにもかかわらず、香港に暮らす約5人に1人が貧困状態に陥っている。一方、経済誌フォーブスの見積もりに基づくと、18年における香港で最も富裕な50人の資産合計額は3070億ドルで、香港政府の財政予備費の2倍に上る。
その解決策は、既に一部からヒントが示されている。鄭一族の下で不動産開発のほかにホテルや宝飾品販売、百貨店などを手掛ける新世界発展<0017.HK>は、同社が所有していた300万平方フィートの農地を公共住宅向けに寄贈すると表明した。同業者も追随し、実際に住宅建設を始めなければならなくなっている。
●背景となるニュース
*香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は16日、一部民主派議員の妨害で、施政方針演説の中断を余儀なくされた。演説が中断されたのは今回が初めて。その後、演説を動画配信した。
*林鄭氏は、土地収用条例に基づいて700ヘクタールの民間所有地を公共の利用に充てる考えを示した。具体的な手続きや、どの不動産開発会社が関係するのかなど詳しい内容はまだ分かっていない。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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