コラム:「金融センター」香港、ロンドンと同じ運命をたどるか
Sharon Lam
[香港 23日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 香港は近くロンドンとの共通点が増えるかもしれない。このほど施行された香港国家安全維持法により、アジアの金融センターとしての魅力が想定的に薄れているためだ。ロンドンも、英国の欧州連合(EU)離脱を受けて金融センターとしての魅力が以前よりも低下している。
ブルームバーグによると、ドイツ銀行でアジア地域を統括する新トップは、シンガポールを拠点とする。前任者は香港を拠点としていた。こうした流れは今後も続くだろう。
ドイツ銀行は、アジアに2つの拠点を置く構造を維持する方針。同行では、過去にアジア部門のトップがシンガポールを拠点としていた例もある。だが、香港では抗議活動が続き、表現の自由も制限される措置がとられた。
現地の米商工会議所が今月実施した調査によると、回答者の過半数が、国家安全維持法の適用範囲や施行方法のあいまいさなどに懸念を表明。約30%は香港から他の地域に資本や事業を移すと答えた。ただ、香港から移転する計画はないとの回答も半数近くを占めた。[nL3N2EK05E]
大量脱出の可能性は低いとみられる。香港の金融業界は約26万3000人を雇用。域内総生産(GDP)に占める比率は2004年の13%から2018年には20%前後に上昇している。オックスフォード・エコノミクスによると、この比率は今後も拡大する見通しだ。
先月導入されたマカオ、中国本土との金融投資商品の相互取引制度も、中国への玄関口としての香港の魅力を高める要因となる。[nL4N2E636I]
フランクフルトやパリは、ロンドンからの金融機関の誘致で苦戦を強いられたが、台北やシドニーも、香港からの金融人材の獲得で苦戦を強いられるとみられる。
昨年9月のEYの調査によると、EU離脱の是非を問う2016年の英国民投票以降、大手投資銀行がライバル都市に移した職は1000人分にとどまっている。もちろん、英国が正式にEUを離脱するのは今年末で、現在ロンドンからEUの顧客にサービスを提供している金融機関は、欧州大陸に子会社を設立する必要がある。
だが、アジアでも今後、欧州同様に他の都市の魅力が増していくだろう。金融機関の間では、出張を減らして遠隔勤務を活用する意欲がみられ、これが一定の影響を及ぼすはずだ。
複数の拠点を維持すればコストもかさむため、他の都市に引き寄せられる引力も強まるとみられる。
コンサルティング会社Z/Yenの3月の最新調査によると、国際金融センターのランキングで香港は3位から6位に転落。シンガポールや東京の後塵を拝している。
新たにアジアに参入する金融機関は、香港以外の選択肢を検討する理由が今後増えていくだろう。
●背景となるニュース
*ブルームバーグによると、ドイツ銀行のアジア太平洋地域の最高経営責任者(CEO)に8月就任するアレクサンダー・フォン・ツァ・ミューレン氏は、本拠地を香港ではなく、シンガポールとする。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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